こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

「うまみ調味料で減塩」を正しくないと考える理由(第二回)

 

さて、世に伝わる情報の真偽。

それを見極めるのは、本当に難しいものです。

特に大手企業による発信は、一般的に信用度が高いと見なされがちで、尚且つ拡散力も強いだけに、誤情報が伝わった場合の弊害も大きいでしょう。

 

例えば、「うまみ」が減塩に効果的だとの説は、うまみ調味料メーカーが主導して流布され、もはや一般的になったように思います。

下記ウェブサイトのような内容です。

www.umamikyo.gr.jp

 

しかし、私はこれに反対する投稿を2023年の2月に書いているのです。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

今日の投稿は新たな視点も加えまして、より深い内容になっています。

全ての食品カテゴリーについて「正しくない」と断言できるかどうかは分かりませんが、読んでいただければ納得していただけるかと思います。

 

段落としては、

①うまみ調味料業界が言うところには

②うまみ調味料の有無と塩分量の相関の例

③しょっぱくない塩

④塩とうまみ調味料は、相性が良い

⑤弊害「たん白質量の誤認」

⑥成立しない仮定に基づく主張

 

と順に書きたいと思います。

 

 

それでは、まず

①うまみ調味料業界が言うところには

まず、うまみ調味料業界は「うまみ調味料で減塩できる」と主張するわけですが、その仕組みを下記のウェブサイト内で説明されています。

www.ajinomoto.co.jp

 

抜粋しますと、

『うま味成分であるグルタミン酸ナトリウム(MSG)のナトリウム含有量は、食塩の3分の1以下です。家庭での調理時、食塩を減らしてMSGを加えることで、例えば汁物ではおいしさはそのままに、約30%のナトリウムを減らすことができます。』

 

この表現方法は、非常に巧妙に仕組まれた罠でありまして。

それは、「食塩を減らし、それをうまみ調味料で代替する」との仮定の元に書かれている点です。

しかし多くの場合、そんな仮定は成立しないと私は考えています。

理由は簡単で、それでは美味しくないからです。

それを、具体的な事例を元に次の段でご説明します。

 

 

②うまみ調味料の有無と塩分量の相関の例

2023年2月の過去投稿では三つの食品を例に挙げ、「うまみ調味料で減塩」が疑わしいと感じる理由について書きました。

レトルトカレー」「ポテトチップス」「たまご豆腐」の三食品で、うまみ調味料入りの製品の方が、塩分量が高い傾向にあることをご説明しました。

しかし、我が事ながら非常に抜けた話ですが、自社製品の例を挙げる方がよほど適切だったようです。

 

それは、「塩ふき昆布」です。

昆布の同業者のことですからあまり悪く言いたくはないのですが、本日は下記の大手メーカー2社の製品と、こんぶ土居製品を比較します。

www.fujicco.co.jp

www.kurakon.jp

 

まず、比較品の原材料は以下の通りです。

〇『ふじっ子 塩こんぶ』

「昆布、しょうゆ、たんぱく加水分解物、砂糖、昆布エキス、食塩/調味料(アミノ酸等)」

〇『くらこん 塩こんぶ』

「昆布 (北海道産)、醤油 (大豆・小麦を含む)、食塩、醤油加工品 (大豆・小麦を含む)/調味料 (アミノ酸等)、甘味料 (ソルビトール、甘草)、増粘多糖類」

 

調味料(アミノ酸等)、が読み取れるので、共にうまみ調味料を含んでいます。

 

また栄養成分表示から読み取れる製品100g中の「食塩相当量」は、それぞれ以下の通り。

フジッコ 塩こんぶ

 食塩相当量22.5g

◆くらこん 塩こんぶ

 食塩相当量23.9g

 

これに対しまして。

こんぶ土居の「細切しおふき」。

konbudoi.shop-pro.jp

原材料は下記の通りです。

真昆布(北海道函館市産)
丸大豆醤油(和歌山県東牟婁郡製造)(原材料:丸大豆、小麦、塩)
濃縮だし(大阪府製造)(原材料:真昆布、鰹節、鰯煮干し)
たまり醤油(三重県鈴鹿市製造)(原材料:丸大豆、塩)
伝統味醂岐阜県加茂郡製造)(原材料:もち米、米麹、米焼酎(乙類))
純米酒(長野県佐久市製造)(原材料:米、米麹)
和三盆糖徳島県製造)(原材料:さとうきび、砂糖)

 

ご覧いただける通り、うまみ調味料は一切含んでいません。

そしてこの製品100gに含有する「食塩相当量」は、たったの「8.9gです。(株式会社食品微生物センター調べ)

先にご紹介した他社2製品は「22.5g」と「23.9g」でしたから、半分以下です。

 

 

ちなみに、前述の他社製品には減塩バージョンも存在するようで、そちらも比較に用います。

www.kurakon.jp

原材料は以下の通りで、たんぱく加水分解物や酵母エキス等のうまみ調味料は含まれていますが、所謂化学調味料と呼ばれる「アミノ酸等」は含まれていないのが見て取れます。

原材料名   :昆布(北海道産)、醤油(大豆・小麦を含む)、砂糖、水あめ、たんぱく加水分解物(大豆を含む)、乳糖、醸造酢、食塩、酵母エキス、寒天、かつおエキス、でんぷん

 

また栄養成分については、食塩相当量 2.8g(1袋27gあたり)と公開されていますので

他の製品と同様に製品100gあたりで換算しますと、食塩相当量10.4gという数字になります。

 

整理しますと。

フジッコ 塩こんぶ(「調味料 (アミノ酸等)」入り)

 食塩相当量22.5g

◆くらこん 塩こんぶ(「調味料 (アミノ酸等)」入り)

 食塩相当量23.9g

◆くらこん 減塩塩こんぶ(「調味料 (アミノ酸等)」なし) 酵母エキスは入っています》

 食塩相当量10.4g

◆こんぶ土居 細切しおふき(すべてのうまみ調味料なし)

 食塩相当量8.9g

 

これを見れば、「うまみ調味料の使用」と「含有する食塩相当量」には、正の相関関係がありそうなのは、誰の目にも明らかでしょう。

うまみ調味料業界が主張する「うまみ調味料で減塩」の真逆です。

なぜこんな結果になるか。

その理由について、次の段落でご説明したいと思います。

 

 

③しょっぱくない塩

「塩味」という味覚は、裏腹の要素を含んでいます。

塩分は人体に欠くことのできない栄養素ですし、つまり『塩は間違いなく美味しい』でしょう。

しかしその一方、舌を刺すような刺激も含みます。

その刺激があるからこそ、多いと「しょっぱすぎる」という嫌な感覚につながるわけです。

適切な濃度が大切です。

 

では仮に、「しょっぱすぎない塩」が存在したとしたら、どうなりますでしょうか。

「しょっぱすぎる」という嫌な感覚に繋がりにくいわけですから、必然的に使いすぎが起きやすいでしょう。

実際に「しょっぱすぎない塩」をつくることは簡単で、うまみ調味料を混ぜれば良いのです。

製品で言えば「アジシオ(味の素株式会社が製造する、食塩とグルタミン酸ナトリウムの混合品)」などは、正にそれに当たります。

普通の塩とアジシオ、両者の味比較をしていただければ、私が申し上げていることを感覚から理解していただけるかと思います。

 

そもそも、「塩カドを感じること」や「しょっぱ過ぎると感じること」は、塩分を取り過ぎないようにするために、人体に備わっている防御作用なのだと思います。

アジシオの例の通り、うまみ調味料がその防御反応を麻痺させ、「しょっぱすぎない塩分」「塩味を感じにくい塩分」が実現するわけですから、過剰に使うことになるのは当たり前でしょう。

それを、「塩ふき昆布」の事例は示しているのではないでしょうか。

 

私共の製品は、減塩を追求したものではありません。

たいしてレシピも変えず数十年、私共が考える「おいしさ」を追求してつくってきました。

例えば、この製品の製造時に醤油を増量したり、比較品のように食塩を併用すれば、当然に含有塩分量は増します。

しかし、そんなことをすれば「しょっぱすぎる」製品になります。

その一方、大手2メーカーの製品は私共の製品の2倍以上の塩分量が含まれているわけですが、それでいて尚「しょっぱすぎない」のです。

こんなパラドックスを成立させてしまうのが、うまみ調味料です。

 

 

④塩とうまみ調味料は、相性が良い

食べ物には、相性があります。

それは、うまみ調味料でも同じで、合うものと合わないものがあるのです。

今や、スーパー等で売られている加工食品には、ほとんどの場合「調味料(アミノ酸等)」と表記される、うまみ調味料が含まれています。

化学調味料不使用」を謳う製品であっても、類似の効果の「たん白加水分解物」や「酵母エキス」等が入っているものです。

 

しかし一方、甘い物にうまみ調味料が入ることは、ほとんど無いと言って良いでしょう。

和洋問わず、砂糖が使われる菓子の類の原材料表示欄に「調味料(アミノ酸等)」の表記を見ることは、ほとんどありません。

つまり、うまみ調味料は、「塩分を含む食品と相性がよく、甘い食品と相性が悪い」のだと思います。

多くの方に、体験として納得していただけるでしょう。

これについては、うまみ調味料の産みの親である池田菊苗氏も言及しているところであって、1912年の報告書にて「食塩と組み合わせると特に味が良くなる」と書いています。

(「グルタミン酸塩の味について」 (1912年 東京帝国大学理学部 池田菊苗) より)

 

「食塩とうまみ調味料が、味覚的相性が良い」。

この事実を見れば、「うまみ調味料を使うことによって減塩につながる」なんてはずがなく、お互いに引き合って、共に使うことに繋がりやすいのは、当然だと思われませんでしょうか。

 

 

⑤弊害「たん白質量の誤認」

さて前述のように、ご紹介した他社のしおふき昆布にはうまみ調味料が含まれているわけですが、その量は、どうやら非常に多いようです。

それは前述の『②うまみ調味料の有無と塩分量の相関関係』と同様、栄養成分の分析によって見えてきます。

公開されているデータから、食塩相当量と共にたんぱく質量を併記します。(製品100g中)

 

製品① フジッコ 塩こんぶ(「調味料 (アミノ酸等)」入り)

 たんぱく質 24.6g、食塩相当量22.5g

製品② くらこん 塩こんぶ(「調味料 (アミノ酸等)」入り)

 たんぱく質 27.1g、食塩相当量23.9g

製品③ くらこん 減塩塩こんぶ(「調味料 (アミノ酸等)」なし) 酵母エキスは入っています》

 たんぱく質 8.5g、食塩相当量10.4g

製品④ こんぶ土居 細切しおふき(すべてのうまみ調味料なし)

 たんぱく質 11.9g、食塩相当量8.9g

 

所謂化学調味料「調味料(アミノ酸等)」を含む①と②が、圧倒的にたん白質量が多いです。

この差こそが要注意なのですが、何故たん白質量とうまみ調味料が関係するのでしょうか。

 

以下の文部科学省のサイトに詳しいですが、食品に含有する「たん白質量」を計算する際の手法としては、「アミノ酸量」又は「窒素量」が使われています。

www.mext.go.jp

 

そして、表示上で調味料(アミノ酸等)と書かれるうまみ調味料は、主成分が「グルタミン酸ナトリウム」であり、グルタミン酸アミノ酸の一種です。

つまり、「調味料(アミノ酸等)」を多量に使うということは、それ即ち「アミノ酸含有量が多い」ということに繋がり、同時に栄養成分表示上での「たん白質量の数値が増える」ことも意味するのです。

 

そもそも、しおふき昆布は、昆布を醤油や味醂などの調味料で煮て乾燥させた製品ですから、本来は特にたん白質が豊富ではありません。

 

それでいて、「調味料(アミノ酸等)」無しの

製品③ くらこん 減塩塩こんぶ「たん白質含有量、8.5g」

製品④ こんぶ土居 細切しおふき、「たん白質含有量11.9g」

 

に比べて、「調味料(アミノ酸等)」ありの

製品① フジッコ 塩こんぶ、「たん白質含有量、24.6g」

製品② くらこん 塩こんぶ、「たん白質含有量、27.1g」

 

が圧倒的にたん白質含有量の多いこと。

それは、「調味料(アミノ酸等)」に由来すると考えるのが妥当で、含有量の差の分だけ化学調味料が使われているのだとすれば、こういった製品には本当に多量のうまみ調味料が含まれているのだと思います。

表示上、見かけのたん白質含有量が多くなっているのは、こんな仕組みだと考えています。

 

これは現在の栄養成分表示の欠陥のひとつであって、「非必須アミノ酸」である食品添加物グルタミン酸ナトリウムであれ、アミノ酸スコアの高い自然のたん白質であれ、とにかくアミノ酸が多ければ即ち「たん白質豊富」と見えてしまうわけです。

肉や魚、大豆など、自然のたん白質豊富な食品でなくても、うまみ調味料を多量に含めば、表面的に「タンパク質豊富な食品に映る」、これは大変に大きな問題だと思います。

アミノ酸スコアの大切さについては、過去投稿でも書いていますので、是非ご参照下さい。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

更に、たん白質量から含まれるうまみ調味料の多寡を推定する試みは、本日のメインテーマである「減塩になどつながらない」という私の主張の補強にもつながるのです。

2023年2月の投稿で例として取り上げた「レトルトカレー」「ポテトチップス」「たまご豆腐」の三食品では、「どちらかと言えば、うまみ調味料入りの製品が塩分量も多い傾向にある」といった程度の差でした。

しかし今回のしおふき昆布の例は、そんなレベルで無いのはご紹介した通り。

たんぱく質量に影響を及ぼすほど多量に使えば使うほど、それに伴って塩分含有量も大きく増えてくるわけです。

どの角度から見ても、うまみ調味料業界の主張と真逆の現実が見えてきます。

 

 

⑥成立しない仮定に基づく主張

冒頭に書いた通り、うまみ調味料メーカーが主張する減塩効果とは、「食塩を減らし、それをうまみ調味料で代替する」ということを条件にしています。

そんなことが実際に成立する食品も、中にはあるのかも知れません。

しかし、今回の事例で見える通り、多くの場合代替などされません。

むしろ逆で、

『うまみ調味料を入れたら、その分塩分も多めに入れないと味のバランスが取れない。』

が正解でしょう。

 

ある仮定の元に話を進めておきながら、その仮定が現実に広く成立しているかどうかの検証が全く不十分です。

どんな実験データに基づいて主張されているのかは分かりませんが、市販製品という何よりの「現実」「実例」と食い違うわけで、不適切だと言わざるを得ません。

是非是非、お気をつけください。

 

『まとめ』

繰り返しになりますが、下記の過去投稿でも、うまみ調味料の問題点は指摘しました。

konbudoi4th.hatenablog.com

私もうまみ調味料の存在を全否定するつもりはありません。

しかし、「文化を破壊し」「健康を害する」、この2点だけは間違いないかと思います。

「うまみ調味料が減塩に効果的」などという誤った健康イメージを植え付けることは、是非やめるべきだと思うのですが。

さてさて皆様方、いかがお考えでしょうか。

 

(了)

 

 

 

#うまみ調味料

#うまみ

#減塩

#ウソ

#嘘

 

日本の昆布研究は、かなり遅れているのか。また、それ故の展望。

 

さて、気候変動等の理由で天然真昆布の資源に大きな問題が出ていることは、ずっと書き続けている通りです。

これに加え、最近では養殖昆布にも問題が出ることが増えました。

数年前からは、二年かけて栽培する「二年養殖真昆布」の栽培に失敗する事例が多発しています。

また、昨年度には一年で栽培を完了する「一年養殖(促成)真昆布」の種苗生産に、過去にない問題が出ました。

 

非常に困った状況ですが、研究者の方々も新たな道を模索しておられます。

こういった内容は、ずっと昆布の問題について素晴らしい発信を続けて下さっている、産経新聞の北村博子さんの2024年3月19日付の記事を読んでいただければ、理解が早いかと思います。

リンクを貼っておきます。

www.sankei.com

 

本日の投稿では、この記事から以下の3箇所を抜粋し、私なりの補足説明をさせていただきたいと思います。

 

①『昭和40年代、生産量の変動リスクを抑えようと日本初の昆布養殖に成功した』

②『最終目標は「完全養殖」だ』

③『1920年代に、北海道から中国に運ばれた材木に付着していた真昆布を活用し、1950年頃に国策として品種改良による養殖の開発が始まった』

 

そして末尾では、この内容から見える「昆布漁業の未来の希望」に帰着しますので、是非最後まで読んでいただけますと幸いです。

 

それでは、

『昭和40年代、生産量の変動リスクを抑えようと日本初の昆布養殖に成功した』については、過去にもこのブログで書いた通りです。

konbudoi4th.hatenablog.com

この過去投稿の中で、私は吉村さんのことを「世界で初めて昆布養殖を実用化させた」と書きました。

これは、あらゆる海外の事例を調べ上げ、外国で養殖事例が無いことを確認したわけではありません。

海外には、古くからの伝統的昆布文化が無いに等しく、言わば「日本の独壇場」でありましたから、「日本初 = 世界初」との認識で書きました。

それは、北村さんの記事にもある通り、昭和40年代のことでした。

 

そして『最終目標は「完全養殖」だ』と記事にある通り、現在北海道大学が中心になって昆布の完全養殖の研究を進めています。

「完全養殖」とは何を指すかと言いますと、「養殖昆布」を親にして種苗を生産し、栽培することです。

逆を言えば、今の真昆布の養殖はこれではないということです。

つまり、「天然昆布」から胞子を採取して種苗を生産し、栽培しています。

これは①の「昭和40年代」から今に至るまでずっとで、だからこそ今、完全養殖に向けた研究が進められているわけです。

 

しかし同時に、

『1920年代に、北海道から中国に運ばれた材木に付着していた真昆布を活用し、1950年頃に国策として品種改良による養殖の開発が始まった』

とも書かれているわけです。

これは北海道大学教授の四ツ倉典滋先生の談話です。

1950年と言えば、終戦から5年後ですから、日本では戦後復興もままならないような時期でしょう。

そんな時期に「品種改良」と「養殖」が、中国で実現していると読み取れるわけです。

私は過去投稿で、吉村捨良さんの偉業として「世界で初めて昆布養殖を実用化させた」と書いたわけですが、この内容と食い違います。

これは、私が不正確なことを書いている可能性につながり、そうであれば訂正の必要が出てきます。

しかも、天然昆布が自生しているわけでない中国での昆布養殖ということは、それ即ち「完全養殖」であることを意味します。

 

この記載内容の情報を整理すべく改めて調べた中で、東京水産大学名誉教授の有賀祐勝先生の書かれたものを見つけました。

こちらもリンクを貼っておきます。

https://nori.or.jp/essay/pdf/vol_021.pdf

内容としては、四ツ倉先生のお話と非常に近いものです。

該当箇所を抜粋しますと。

 

マコンブ養殖で世界的によく知られるようになったのは中国で、大規模な本格的養殖が大連や山東省沿岸で行われ大きな成果を上げている。中国にはもともとコンブは自生していなかった。その中国でのコンブ生産量は今や世界一であり、すべて養殖によるものである。中国では初めはアルギン酸工業の原料として養殖コンブが利用されたが、現在では食品としての利用も広がりつつある。中国でのマコンブ養殖は、第二次世界大戦後も中国側の要請で中国に残った大槻洋四郎さん(元関東州水産試験場)の技術指導で始まったものである。中国でのコンブ養殖は、「材木に付いて中国に流れ着いたコンブを元に毛澤東主席の指導によってこのように大規模産業として成功した」と言われていた時期があったが、実際には大槻さんの技術指導と後に中国科学院海洋研究所初代所長となった曾呈奎さんによる人工採苗・育苗など種苗生産に関わる技術開発と技術指導によって今日見られるようなコンブ養殖の高生産が成し遂げられたのであり、現在では大槻さんの業績が正当に語られるようになっている。大槻洋四郎さんは 1930 年代に北海道から中国にコンブの種苗を輸入して正式に養殖試験を始めたと言われている。ごく最近、中国の研究者と北海道大学教授の四ツ倉典滋さんの共同研究によって、中国で養殖されているマコンブの元は北海道からもたらされたものであることが DNA の塩基配列の解析によって明らかにされた。 

 

この内容は四ツ倉先生の談話とほぼ同じで、1930年代から、大槻洋四郎さんという日本の海藻研究者が指導して進められたものだとのことです。

やはり「昆布養殖は、日本より数十年も早く中国で実現していた!」との認識で間違いないようです。

今回の北村さんの記事をきっかけとして、私は昆布の専門家としての自分の見識の浅さを恥じることになったわけですが、それと同時に「未来への希望」を強く見出しているところです。

簡単に言えば、日本の昆布生産は大きな問題を抱えているわけですが、それは「遅れているだけ」、ではないかということです。

進むべき道が閉ざされているわけでないことを、中国の事例が示しています。

 

世界の昆布文化の中心である日本で業界に身を置く者として、中国と比較して日本の昆布生産が「大幅に遅れている」ということなど、ある意味悲しい事実です。

しかし、ここはやはり「謙虚に学ぶ姿勢」が必要でしょう。

日本人は根拠のない自信を持つことが多く恥ずべきことだと思いますが、吉村さんの事例を「世界初」と書いてしまった自分もその一人であったということで、なんとも申し訳のないところです。訂正致します。

 

 

今回の投稿は、冒頭で書きました通り、産経新聞の北村博子さんの記事がきっかけでした。

引き続き、北村さんの昆布記事からは目が離せません。

この記事には、後半にもうひとつ大切な内容も書かれていまして、以下の通り抜粋します。

 

温暖化の進行を受け、四ツ倉教授も高水温で育つ昆布の品種改良の研究に取り組んでいる。ただ、品種改良には技術面以外の課題もあるという。

北海道の沿岸を取り巻く形で分布する昆布は、同じ品種でもそれぞれの浜で独自の遺伝的特性をもつ。人工的に作り出した品種を海中に入れると、多様性を壊してしまう恐れがあるという。「今の昆布の良さが失われてはいけない。将来に備えての研究です」と話す。

 

大切なのは「守るために変えていく」ということでしょうか。

現在では、日本全国的に磯焼け傾向が進んでいます。

古くからの種のバランスを尊重するのはとても大切なことですが、沿岸の海底環境悪化が破滅的に進んでいる今、それが自然に回復することが期待薄なのであれば、やはり人間が手を貸すべきであるようにも思います。

そもそも、農業では大昔から品種改良が進められていますね。

場所が陸から海に変わるだけで、意味合いは同じ事です。

 

 

【未来への希望】

天然真昆布が常態化した不作であることを申し上げると、多くの人は「温暖化が原因ですか?」と仰るわけです。

これは、その通りでしょう。

しかし私はこういった言葉を聞く度に、そこに「他責の匂い」を感じ、残念に思うのです。

グローバルな結果に直結するような偉業は起こせなくても、ローカルを改善することならできるものです。

温暖化によって海水温が上がり昆布に逆風が吹いたとしても、その中で希望を見出し、先へ進むことが大切です。

その実現可能性は、先にご紹介した東京水産大学名誉教授の有賀祐勝先生のレポートでも示されているのです。

該当箇所を抜粋します。

 

沖縄におけるコンブ養殖試験は三浦昭雄さんの主導で動き出した。まず千葉県種苗センターのご厄介になって移植試験用のマコンブ種苗を確保した。細いロープに着生した種苗を 1982 年 12 月に沖縄に運び、沖縄県水産試験場研究員の当真武さんのお世話で沖縄本島北部の羽地内海のヒオウギガイ養殖筏に吊り下げてもらい、管理をお願いした。養殖試験の途中経過は当真さんから三浦さんのもとに随時もたらされたが、残念ながら移植マコンブの生長と生残は思わしくなく、わずかの個体が残るのみとなり、翌 83 年 5 月初めに試験を終了することになった。佐々木忠義さん、三浦昭雄さんとともに沖縄を訪れ、5 月 1 日に撤収した。図 2 はその時に生き残っていたマコンブの写真である。最終的にはわずか 3 個体となってしまったが、沖縄の海における初めてのコンブ養殖試験の結果は、全滅ではなく、今後何らかの工夫を加えればコンブを育てることは可能であることを示している

 

このように、なんと沖縄でも一部の昆布は生き残ったのです。

選抜育種による品種改良は、正にこの3個体を育て上げるイメージです。

これこそが、遺伝的多様性の素晴らしさ!!

これは、私が書いた過去投稿を補強してくれる内容でもあります。

今より遥かに温暖であった縄文時代にも、昆布は生えていたようですから。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

 

これまでの北海道の昆布漁業は、「根本的な大問題が発生しなかったから、古くからの方法を続けてきた」ということだと思います。

しかし、もう状況は変わってしまいました。

現状は一過性の問題ではありません。

もう「根本的に危機」でしょう。

その危機意識が背景にあってこそ、新たな道へ進む原動力になるのだと思います。

ここ最近は、そんな動きが活発化しているように強く感じるのです。

 

さてさて、今後の昆布漁業の『再生』を見るのが楽しみです。

多くの研究者や昆布漁業従事者が、その未来のために動いて下さっていますが、私も後方支援を続けたいと思います。

また進捗があれば、このブログでもご報告します。

 

(了)

 

食育とは何か、世間には名ばかりの事例も多く。

 

さて6月1日と2日に、大阪関西万博のプレイベントとして、大阪南港 ATCホールにて、「第19回食育推進全国大会」という催しがあります。

www.wakuwakuexpo-syokuiku-osaka.jp

 

ステージイベントとして様々な内容が用意されており、私にも登壇の要請を頂きましたので参上の予定です。

2日のお昼すぎからの「大阪だし文化セミナー(仮)」です。

話の内容としてはざっと以下のとおり。

 

〇大阪の食の歴史と昆布の関わり

〇大阪の食文化を支える昆布だし

〇地域などによる様々なだしの違い

〇だしの飲みくらべ(真昆布だしと顆粒だし)

〇昆布の栄養価(データの紹介)

〇大阪の食の未来へ向けて、こんぶ土居の思い

 

この各内容は、私が指定したものでなく、先方のご担当者様が考えて下さったものですが、非常に結構だと思います。

しかし、先日ご担当者様と打ち合わせをした際、少々苦々しく思うこともありました。

それは、上記の項目のひとつ

〇だしの飲みくらべ(真昆布だしと顆粒だし)

についてです。

 

この飲み比べの方法としては、私が現場でとったダシと、一般的な顆粒だしのもととの比較です。

この試飲体験の結果、誰もがその違いを理解し、天然だしの価値を知って下さるのであれば、とても嬉しいことです。

しかし残念ながら、既に現状はそんな段階ではありません。

間違いなく相当数の人が、顆粒だしの方を美味しいと言うでしょう。

これほど、もはや日本人の味覚は過去と変わってしまっているのです。

これについては、過去投稿をご参照ください。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

 

そもそも、『味の好み』になど他人が口を挟むべきことではありません。

誰もが自分の好きなものを選んで食べれば良いのです。

しかし、今回のイベントは『食育推進全国大会』です。

食育となれば、それは個人個人の好みなどとはと違った公の目的があるわけで、「価値の違い」を伝える必要があるわけです。

その観点として大切なのは、「健康」と「食文化」です。

 

ここでまず、食育が目指しているものを確認する意味で、食育基本法の中から「健康」と「食文化」に関する部分を抜粋してご紹介します。

elaws.e-gov.go.jp

 

第二条(国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成)

食育は、食に関する適切な判断力を養い、生涯にわたって健全な食生活を実現することにより、国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成に資することを旨として、行われなければならない。

 

第七条(伝統的な食文化、環境と調和した生産等への配意及び農山漁村の活性化と食料自給率の向上への貢献)

食育は、我が国の伝統のある優れた食文化、地域の特性を生かした食生活、環境と調和のとれた食料の生産とその消費等に配意し、我が国の食料の需要及び供給の状況についての国民の理解を深めるとともに、食料の生産者と消費者との交流等を図ることにより、農山漁村の活性化と我が国の食料自給率の向上に資するよう、推進されなければならない。

 

第二十四条(食文化の継承のための活動への支援等)

国及び地方公共団体は、伝統的な行事や作法と結びついた食文化、地域の特色ある食文化等我が国の伝統のある優れた食文化の継承を推進するため、これらに関する啓発及び知識の普及その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

以上の3つが関係しますでしょうか。

このように食育によって成し遂げられるべきテーマとして「健康面」と「食文化」は公的に定められているわけです。

 

本物のだしとうまみ調味料を主成分にしただしのもととを比較して、どのような健康価値の違いがあるか十分に理解している人など、ほとんどいないでしょう。

同様に、昆布のだし文化が今どんな惨状にあるか正しく理解している人も、ほとんどいないと思います。

だからこそ、食育の場で伝える必要があるわけです。

 

両観点については、下記の2つの過去投稿でご理解が深まると思いますので、ご紹介しておきます。

まず、健康価値についてはこちら。

konbudoi4th.hatenablog.com

「食文化」については、こちらを。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

 

こんな現状ですから、イベント時に「単なる味比較」の試飲体験を提供するのでなく、その背景に存在する事柄を伝えることこそが「食育」でしょう。

ただの「味見」に食育的観点から、どんな意義がありますでしょうか。

冒頭に書きましたように、ご担当者さんとの打ち合わせの際に、この内容に少し難色を示されたような雰囲気がありました。

趣旨としては、『あまり顆粒だしのもと等を悪く言わないで欲しい』、といったことです。

 

そのように仰る理由と関係があるのかないのか。

改めてこのイベントのウェブサイトを見ますと、協賛企業の中に、うまみ調味料を製造する某巨大企業の名前がしっかりと出ています。

www.wakuwakuexpo-syokuiku-osaka.jp

スポンサー企業への配慮が、食育の本義より優先されることなど、絶対にあってはならないことだと思います。

 

繰り返しますが、何を食べるかということは、個々人が決めることで他人が口を挟むべきことではありません。

顆粒だしにも、価格が安かったり簡便であったり、それなりの価値もあるでしょう。

しかし、今回は『食育推進全国大会』であるわけです。

大きな軋轢が生まれないよう伝え方には配慮しますが、私は食育の精神である健康と文化の観点に於いては、本物のだしを『優』、顆粒だしを『劣』なるものとして伝えます。

 

私は、古くから大阪で仕事をしてきた昆布屋として、その伝統食文化を担うべき存在として、昆布の『健康と食文化の価値を伝える』ことを自らのミッションと課しています。

こういった正論が通るのか、それともスポンサー企業への忖度の前に封殺されてしまうのか、果たしてどちらでしょうか。

前者であると信じて、今後も活動を続けます。

 

世間的一般的にも、食育の名を語っていながら、中身は企業のPR活動であるような事例も少なくないものです。

是非お気をつけ下さい。

 

食育については、過去投稿でも一度触れています。

よろしければ、そちらもご一読下さい。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

(了)

新規お取引をご希望の、販売店様へお願い

 

たいへんに有難いことに、私共へは、こんぶ土居製品を販売したいと言って下さる食品販売店様からのご連絡が絶えません。

ご連絡の方法として主なのは、「こんぶ土居オンラインストア」のお問い合わせフォームです。

私共の製品を評価して下さっているからこその取引希望だと思うので、非常に有難いですし、多くの場合は個人的にご利用下さっているお客様でもあるのです。

買って食べてみた経験、その上でのご要望ですから、感謝はひとしおです。

ありがとうございます。

 

 

ただ多くの場合において先方様は、良い食品を厳選して取り扱っておられる、小規模な企業様です。

これは至極普通のことで、食品の場合は特に、品質を追求すればあまり大規模にはならないものです。

ですので、大変失礼ながらこちらで先方様を存じ上げない場合がほとんどです。

そんな状態で、例えば、お問い合わせフォームから以下のような文面が届くわけです。

 

有限会社 こんぶ土居 ご担当者様

初めてご連絡させていただきます、〇〇〇と申します。
貴社商品のお取り扱いをさせていただきたくご連絡いたしました。

貴社商品は大好きで、▽▽▽を以前から愛食させていただいております。

お取り扱いについてご条件などありましたら、教えていただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願い申し上げます。

株式会社〇〇〇 

△△△ ◇◇◇

 

非常に有難いことだとは思うのですが、私共は製造量が限られていることも関係し、お声掛けいただいた全ての方へ商品を卸すことはできません。

お取引は、「互いに敬意を払い合える良い関係」を築くことができる販売店様に限定したいと考えております。

そのために必要なのは、「十分な相互理解」です。

そんな風に考えますと、先の「いただくメールの例」として見ていただいたものでは、相互理解には程遠いように思うのです。

 

実際にお会いしてお話を聞けば、本当に多くのことを知ることができます。

それができなかったとしても、例えば電話でお話するだけでも、声から伝わるものはあるものです。

しかし、メールとなれば、そんなものは単なる文字情報。

なんとも対応に困ってしまいます。

 

 

こんな事情ですので、勝手を申しますが、ご遠方でなければ是非こんぶ土居までお運びいただき、直接ご要望をお伺いしたいです。

それが難しいとしても、お電話いただくのが良いように思っています。

私土居が応対させていただきますので、不在のことなども少なくありませんで、ご不便おかけすることもあるかと存じますが、何卒ご了承下さい。

 

 

その一方、インターネット上の情報が、理解に大きな役割を果たすことも、重々承知しております。

特に、充実した内容のウェブサイトや、公式SNSでの情報発信などが、それに該当しますでしょうか。

これらは相互理解の「下地」として非常に有用かと思いますし、ご案内いただければ拝見致します。

私共でも、「ウェブサイト」「オンラインストア」「インスタグラム」「こんぶ土居店主のブログ」等で、日々情報発信をしております。

 

まとめれば、以下のような流れが理想でしょうか。

 

①可能な限りの情報(企業情報一式、お考えや、SNS等の外部サイトへのリンク)を記載いただき、こんぶ土居オンラインストア「お問い合わせフォーム」からのご連絡。

②その上で、お電話をいただく(06-6761-3914)。(可能であれば、その後ご来店での直接のお話)

 

誠に勝手を申しますが、なにぶん「良い関係の構築」を目指してのものですので、ご理解を賜れますと幸いです。

よろしくお願い申し上げます。

 

(了)

 

(追記)

過去にも、直接ご来店いただいたことにより、非常に良い形でお取引をスタートできた経験も多々ございます。

例えば、過去のブログ投稿でご紹介したこの一件も、そんな出来事でした。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

 

名言!『酵母エキスは、脱法うまみ調味料だ』by 料理研究家リュウジ


先日、ホリエモンこと堀江貴文さんのYouTubeチャンネル『堀江貴文 ホリエモン』にて、ある動画が公開されました。
タイトルは『味の素論争は100年続く?無添加信仰の原因とその弊害とは』です。


この動画は、堀江さんと、『化学調味料大好き料理研究家』ことリュウジさんが主になって、うまみ調味料についての持論を展開するものです。

youtu.be


話の内容には、正しい部分も誤っている部分もあるのですが、この動画の中でリュウジさんから見事な名言が飛び出しました。
それは、酵母エキスを『脱法うまみ調味料』と呼んだことです。
今も引き続き大人気と見える『茅乃舎だし』が、酵母エキスを使っていながら無添加を謳うことについて話したものです。

 

いやはや、なんとも素晴らしいネーミングです。
加工食品の原材料表示では、『調味料(アミノ酸等)』と表記される食品添加物化学調味料と、食品添加物に分類されないうまみ調味料『酵母エキス』が、結局ほとんど同じだと言うことを見事に表現してくれました。

さぁ、そろそろ『本物』と『本物に見せかけたもの』の違いが理解される日がやって来るのでしょうか!

 


先に書きました通り、この人は味の素が大好きな料理研究家で、言わば『昆布屋の敵』であるわけですが、たまに面白いことを言うのです。

 

ただ、繰り返しますが、この動画には正しい部分も誤った内容もあります。
本当に正しく理解して頂きたく、ぜひ私の過去投稿を読んで下さい。
2023年6月26日投稿の『化学調味料は健康に悪いのか』です。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

今回の話題には、下記の別投稿も関係します。

2022年3月2日投稿分『無添加の問題点』です。
こちらも併せて読んで頂きたいです。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

しかし、有名人が公然と茅乃舎さんをディスっているわけですが、大丈夫なんですね。
『こんぶ土居店主のブログ』で刺激的なことを常に書いていて、過去に某大学教授の代理人弁護士から抗議文を内容証明郵便で送りつけられて、『訴えるぞ!』と脅された経験もある私ですが、励みになりますwww 

(了)

 

#酵母エキス

#無添加

#問題点

#脱法うまみ調味料
#料理研究家リュウ

『DEAN & DELUCA』さんのこと

 

世界中の美味しい食べ物をあつめたセレクトショップ「DEAN & DELUCA」さん。

とても有名ですから、知らない人はあまりいないでしょう。

 

こんぶ土居ともお取引いただいていまして、最近、楽しいことが次々に起きています。

そんなきっかけで、本日の投稿では、お取引が始まった当時から振り返り「DEAN & DELUCA」さんと私共の嬉しい関りについてご紹介するものです。

 

段落としまして、

「突然の訪問者」

「セレクトをチェック」

「担当者が変わっても」

「オリジナル商品、脅威の品質」

 

と順に書いてみます。

 

 

『突然の訪問者』

2016年の夏の日、ある男性がアポも無しに突然私共を訪問して来られました。

それが、DEAN & DELUCAさんでバイヤーをしておられた宮嶋真志さんでした。

「新米と楽しむ究極のごはんのおとも」というプロモーション企画で、私共の製品を扱いたいとのご要望を頂いたわけです。

当時の私もDEAN & DELUCAさんのことを知ってはいましたが、お店を利用させていただいたことはありませんでした。

ご要望いただくことは非常に有難いのですが、こんぶ土居では安易にどの企業様へも商品を卸すということは致しません。

どのようなお考えで製品のお取り扱いを希望して下さっているのか、それを確かめる必要があります。

天下のDEAN & DELUCAさんに対して、零細昆布屋である私共が非常に失礼なことですが、後日リサーチのために大阪の店舗へ足を運ぶことにしました。

 

 

このような最初の接点であったのですが、実は宮嶋さんと私には共通の知人がいたのです。

不思議なご縁でびっくりしましたが、北海道の真昆布産地からも遠くない「七飯町」で山羊を飼い、チーズづくりをしている「山田農場」の山田さんです。

yamadanoujou.blog.fc2.com

youtu.be

 

北海道の某同業昆布屋さんに山田さんのチーズをいただいたことがあったのですが、個人的には東日本大震災の年にお知り合いになりました。

山田さんご夫妻の、「つくるチーズ」「暮らしぶり」「お人柄」が個人的に大好きで、北海道への出張時には、よく訪れます。

 

どういった話の流れか忘れましたが、宮嶋さんのご出身の話題になって、お伺いしたところ北海道の「新得共働学舎」がご実家だとのことで驚きました。

kyodogakusya.or.jp

 

この「新得共働学舎」さんこそ、山田さんがチーズづくりを学んだ場であったことを、以前から私も聞き及んでいたのです。

宮嶋さんも、当然山田さんのことはご存じです。

そんなこんなで、昆布の話をあまりせずチーズや新得共働学舎さんのことについて、色々とお話しさせていただいたように記憶しています。

楽しい思い出です。

 

 

『セレクトをチェック』

前段で書きました通り、宮嶋さんとの不思議なご縁で大いに盛り上がったわけですが、それはそれ。

DEAN & DELUCAさんが、どのような考えで取り扱い商品を選んでおられるのかを知るため、私は後日「DEAN & DELUCA大阪店」へ向かいました。

まず、驚いたことは、和食材が豊富に揃えられていることでした。

そもそもアメリカの企業からブランドは始まっていますし、輸入品が多いのかと思っていましたが、そうでもないのです。

そして、その和食材をざっと拝見して回りました。

 

結局私が知りたいことは、こんぶ土居の食品に対する考え方と、DEAN & DELUCAさんのそれが、近いのかどうかということです。

具体的に言えば、例えば食品添加物まみれの製品は論外ですし、特に昆布屋的観点で申し上げれば、伝統食文化の衰退を招くうまみ調味料の多用も好ましくないと考えています。

そういった視点でDEAN & DELUCAさんのセレクトを拝見すると、一本スジが通ったものを強く感じました。

当時、とても驚いて嬉しかったのを覚えています。

こういった考えで取り扱い商品を選んでおられるのであれば、ご来店客様にも私共の製品をご理解していただけるだろうと感じました。

こうして、DEAN & DELUCAさんとこんぶ土居のお取引が始まったわけです。

 

 

『ご担当者が変わっても』

先に書きましたように、当初のバイヤーさんは宮嶋真志さんでした。

その後、三上昌洋さんというご担当者様が後任を務めて下さいました。

三上さんにも、ご在任中は大変好意的に対応していただけたのが非常に有難いところです。

 

そして現在のご担当者様が、また非常に素晴らしい方で。

吉住さんという女性です。

この吉住さんのご経歴もとても興味深く、そちらは下の記事にてご紹介と致します。

www.talent-book.jp

 

吉住さんは、わざわざ東京から私共の店舗へ足を運んで下さったこともあって、たくさんお話を伺いましたが、静かな良い情熱に溢れた方だと感じました。

それは、先のネット記事をご一読いただければ、よく分かるかと思います。

 

一般論として、企業規模が大きくなれば、ご担当者様の異動はつきものです。

そんなとき、残念に感じる場合が無いではないのです。

それは「前の担当者さんは熱心で良い方だったのに、後任がイマイチ」という流れです。

こういったことが起こるのは、ある意味仕方のないことですが、なにしろ残念です。

 

しかし、DEAN & DELUCAさんについては、言ってみればその逆。

宮嶋さんから始まった良いご縁は、吉住さんによって更に素晴らしい方向へ進んで行くのです。

 

 

『オリジナル商品、脅威の品質』

吉住さんが担当して下さって以後、新しいことが生まれます。

それは、こんぶ土居製品を原材料に使用した、DEAN & DELUCAさんオリジナル商品です。

最初に実を結んだのが、こちらの商品。

おでんです。

store.deandeluca.co.jp

 

これは、冬季のみの限定商品で今は買うことができませんが、びっくりするほど美味しいです。

特筆すべきは味わいの清らかさ。

シンプルであって、同時に確かな満足感もあります。

それは、使用される具材も厳選されたものであるからこそでしょう。

 

そして、原材料表示を見て更にビックリ。

おでんの味付けに使われた調味料が、私共のダシと塩だけだったのです。

醤油やみりんですら入っていません。

こういった無駄を潔く削ぎ落した製品の実現には、ある意味の信念が必要で、できそうでできない事柄です。

恐らく来年も販売されるのではないかと期待しておりますので、食べてみたい方は来冬まで待ってみましょう。

 

そして今年、また新たな商品が生まれました。

それがこちら。

store.deandeluca.co.jp

 

 

「銀鮭」「鯖」「 帆立」「穴子」と四種類の、だし茶漬けの素。

ご厚意で吉住さんが完成品を送って下さったのですが、これまたビックリするほど美味しいのです。

そして、こちらもおでん同様に、調味料が私共のダシと塩だけなのです。

いやはや。なんとも。

非常に嬉しいのと同時に、責任の重さを感じます。

私共が製造するものの味が、DEAN & DELUCAさんの製品クオリティに直結するわけですから。

オンラインストアに記載して下さった言葉を抜粋してご紹介しますと。

 

魚介の味わいを最大限に引き出す、とっておきの昆布出汁
シンプルに調理した魚介のおいしさを、より一層引き立てるお出汁を求めて。何種類も試し、試作を繰り返した結果、たどり着いたのは大阪の昆布専門問屋『こんぶ土居』のお出汁です。

どのような具材も受け止める昆布ベースの清らかな旨みは、優しい味わい。すべての具材とバランスよく、なおかつ魚介の味わいを最大限に引き出します。

 

こんなことを書いて下さって非常に恐縮、今後もご期待に沿えるものづくりを続けたいと思います。

こちらのお茶漬けは今も買うことができます。

是非お試し下さい。

ちょっと、この製品を超えるお茶漬けの素が世に存在するイメージができません。

 

 

 

さて、ざっとこんな感じのこれまで。

素晴らしいご担当者さんばっかりで、本当に有難いです。

結局は『人』、ですね。

今後また、DEAN & DELUCAさんと私共の間に、新しい何かが生まれてくるかも知れませんよ。

個人的に、とても楽しみです。

 

 

最後に、手前味噌で恐縮ですがDEAN & DELUCAさんが私共について書いて下さった記事も貼り付けておきます。

よろしければ、ご一読ください。

deandeluca-enjoy.com

 

(了)

『昆布だし文化、7割減』の衝撃

 

今回の投稿も、なかなかに暗い話で恐縮ながら。

また、過去に書いた内容との重複を多分に含みますが、是非知って頂きたい昆布の現状についてです。

 

まずひとつ、データをご覧ください。


上のグラフは総務省の家計調査、昆布の消費量です。

市販されている昆布の主な用途としては、やはり「昆布だし」かと思いますが、データが示すとおり、消費量は、1990年(平成2年)と比較すればなんと3割程に落ち込んでいるのです。

日本の食文化の中で、衰退傾向を見せる分野は少なくないかと思いますが、これほど急激に落ち込んでいる食品もあまり無いかと思います。

 

その一方、下のグラフ。

こちらは、「昆布つくだ煮」の消費量です。

同じく減少傾向ではあるものの、4割減ぐらいですので、昆布そのものと比べれば遥かに減少スピードが緩やかだと言えます。

 

この両者の傾向。

実は、過去の私は逆の予想をしていました。

それは、日本のだし文化が脚光を浴びていたからです。

2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、その一大要素として「だし」のことが海外に広く発信されました。

その素材としての昆布も同様です。

これは、文化的な価値と共に、健康面も評価されてのことでした。

 

その一方、日本人はどんどん米の飯を食べなくなってきています。

昆布の佃煮はご飯のお供ですから、それに連れて消費量が減少するだろうと考えていたのです。

元々は保存食として始まった食品ですし、塩分量の関係もあって、減塩志向の強い今では尚のことでしょう。

しかし、先にご紹介したデータは、逆のことを示しています。

佃煮類の需要は、意外に底硬いのです。

 

ここから見えることは、以下のような事だと考えています。

 

〇日本人は料理をしなくなってきている

〇代用品の有無、イミテーション化の可否

 

 

まず前者

〇日本人は料理をしなくなってきている

につきまして。

 

忙しい現代人ですから、日々手作りの料理が提供される家庭も、徐々に少なくなってきているように思います。

外食産業も充実、スーパー等ではお惣菜売場の面積は広がるばかり、コロナ禍では宅配料理も一気に普及したようです。

家庭で料理をしないのであれば、「だし」など不要であるのは当然です。

こんな背景で、「昆布」の需要が減少しているのだと思います。

一方、「昆布つくだ煮」の類であれば、ごはんさえあれば、そのお供として使われます。

何の調理も必要ありません。

これが「昆布つくだ煮」の減少スピードが比較的緩やかな理由であろうと思います。

実は、これは私共の製品の売行き動向を見ても感じるところで、昆布と削り節の「ふりかけ」や、細切のしおふき昆布等は意外によく売れます。

「調理の手間がかからない」ということが共通要素です。

しかし、「料理をしない」ということは、大きな問題を抱えていると思いますし、個人的に非常に残念に感じています。

こちらにつきましては、過去投稿をご参照下さい。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

 

次に

〇代用品の有無、イミテーション化の可否

につきまして。

 

これはシンプルな話で、「昆布だし」の代用品が広まっていることです。

所謂「化学調味料」(表示上で、調味料(アミノ酸等))や、酵母エキス、たん白加水分解物、各種エキス類等の、うまみ調味料です。

「うまみ」を得るのに、昆布や発酵食品が必須であったのは遠い過去の話で、今は「代用品が豊富」な時代です。

一方、佃煮の原材料として使う昆布を、何か別のもので代替することなど不可能ですね。

つまり、「代用品」が有るか無いか、このあたりが消費動向に大きく関係しているのは間違いないかと思います。

「代用品原料」で構成される一般的なだしのもとに、如何に昆布が少ししか使われていないかは下記の過去投稿をご参照下さい。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

これは、『文化と健康の喪失』そのものですから、非常に残念です。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

私は昆布屋ですので、昆布文化を守るべき立場にいるわけですが、残念ながら業界が同じ意志の元に進んでいるようにも見えません。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

冒頭にご紹介したデータは、『平成』という32年間の一時代の変遷を表したものです。

故・小渕恵三氏が元号を発表されたとき、私は中学生でした。

いつの間にか年を取りましたが、それでも遥か昔のことだとは思いません。

本当に残念なことに、昆布文化は平成の時代に一気に衰退しました。

f:id:konbudoi4th:20240227082719j:image

 

では今後、令和の時代はどうでしょう。

私は、更に加速度的に状況は悪くなると考えています。

平成の時代には無かった新たな問題として「海洋環境の悪化」と「漁業者人口の急激な減少」が存在しているからです。

 

「価値が無いものであれば、淘汰もやむ無し」だと思います。

しかし、世界的にも日本の昆布文化は脚光を浴び、素晴らしい価値のあるものと認知されています。

それが、本場である日本でこんな現状ですから、本当に残念なことです。

昆布だけでなく、「正しい食」に十分な注意が払われなかった結果でしょう。

 

最後に申し添えますと、日本の昆布消費量が急激に減少する中で、私共「こんぶ土居」は売上が落ちていません。

これは、代用品とは一線を画す「本物」を追求すれば、それを支持して下さる方も必ずいるという事です。

「健康と文化の喪失」が進む悲しい未来を少しでも遠ざけるため、本物と「代用品」の違いについて、正しい理解をして下さる方が増えることを望むばかりです。

その一助となる「こんぶ土居店主のブログ」でありたいと考えています。

 

(了)