こんぶ土居へのご来店客様の中で、「良い雰囲気のお店ですね」と言って下さる方があります。
特別に凝った内装デザインにしているとか、そんなことは一切ありません。
普通の店舗内装です。
しかし、敢えて多くの他店舗と違いを探すなら、ほとんどが自然素材で構成されていることかと思います。
逆に言えば、世の多くの店舗や住宅は、自然素材ではないということです。
室内空間は、基本的には「床と壁と天井」で構成されています。
一般住宅の内装で最も多いのが、「白い壁と天井に、木質フローリング」といった組み合わせでしょうか。
これが、「自然素材」ではないわけです。
白い部分は、ビニールクロスが貼られているのが一般的ですし、多くのフローリング材は、無垢板で出来ているわけでなく、言ってみれば「木のように見える何か」です。
仮に無垢板をベースにした材であっても、ウレタン塗装等が施されている例が多く、これでは「ウレタンの向こうに木が透けて見えているだけ」であって、機能としては「ウレタンの床」と同じでしょう。
この「白いビニールクロスと、木質フローリング」を、自然素材に置き換えるなら、「白い漆喰と、無垢板フローリング材に自然塗装」ということになるかと思います。
この両者を比較したとき、その機能の違いを言葉で説明することは簡単ではありません。
しかし誰の目にも、「印象の違い」は明らかなのです。
「説明」しづらいだけで、確実に違いは存在する。
「そっくりだけど何かが違う」のです。
これを、昆布に関する話で置き換えますと、
「白い漆喰壁と、無垢板」が「本物の昆布だし」
に相当し
「白いビニールクロスと、木質フローリング」が「うまみ調味料」
なのだと思います。
確実に違うのだが、「その違いを言葉で分かりやすく説明しづらい」ところが、そっくりです。
やはり、機能を単純化してしまうと、同一視に近づくのだと思います。
「昆布のだし」も「うまみ調味料を駆使した、だしのもと」も、『うまみ』という観点に立てば、ほとんど同じなのです。
「漆喰壁」も「ビニールクロス」も、『真っ白な壁』ということで言えば、同じようなものです。
ここで注意が必要なのは、後者の方が圧倒的にコストが低い、ということです。
こんな背景で、あらゆる食品が、後者「イミテーション側」に移行してきたのだと思います。
そうなれば、健康にも問題が出てくるリスクが考えられると思います。
近年は、原因不明の健康問題に直面する人の割合が、増えているように感じませんでしょうか。
私が子供の頃は、アレルギー体質の子供など、ほとんどいませんでしたが、今は一変しています。
新生児の先天異常も多くなっていると聞きます。
下のリンクの環境省のサイトを見ると恐ろしくなりますが、これが食品問題と無関係だと言えますでしょうか。
https://www.env.go.jp/council/content/i_02/900415577.pdf
「何が違うのか明確に説明できない」。
この状況を以て取ることのできるスタンスは、2つに分かれます。
「違いを明確に説明できないのだから、同じだろう」
という考え方と、
「明確に説明できなくとも、何かが違っているようだ」
という見方です。
前者は、「感じる力」が足りないのかも知れません。
「物事を単純化しすぎない」、「エビデンスの有無に頼りすぎない」ということが、とても大切だと思います。
何事も複雑で、人間の浅知恵で全てが理解できるほどシンプルにできていないと思います。
過去にも、このブログで「昆布とうまみ」が関連づけて語られる文脈に、反対してきましたが、単純化されたもの以外の要素に目を向けていないから同一視が起き、昆布文化も衰退するわけです。
うまみ調味料が多用されることの、問題点についてご説明したものは、この過去投稿で。
下の写真のような感じが、住宅の内装として一般的ですよね。
これを自然素材に置き換えると、雰囲気は一変します。
少なくとも私は、そう感じます。
ただ言葉で表現したならば、どちらでも「白い壁と、木材的な床」です。
その「説明しづらい違い」にこそ、目を向けていただきたいと思います。
建材ですら、人間の健康に違う影響があったりして。
日々、人のからだの中に入る食品ならば、尚の事です
最後に、こんぶ土居の三代目である土居成吉が、平成17年8月に書いた「こんぶ土居通信 №13「建築について」を載せておきます。
蜆橋(現在の梅田新道)で昆布屋を営業していた当店の創業者 土居 音七は明治42年の北の大火で罹災し、空堀へ移転することになりました。こんぶ土居では、それ以来当時の建物を改修しながら使ってきましたが、老朽化がひどく建て直しを考えていました。健康な生活を送る上で最も大切なものは食べ物で、次は住居だと考えておりますので、かねてから住宅に関する本を読むなどして、情報を集めておりました。新しい工法や、近年脚光を浴びる外断熱工法も検討致しましたが疑問点もあり、最終的には伝統工法が最良であるとの結論に達しました。
しかし、狭小地をいかに有効的に使うかに頭を悩ませておりましたところ、五軒となりの閉鎖された信用金庫の建物を使わせていただけることになりました。築50年の鉄筋コンクリート造ですが、これまであたためてきた建築への理想を込めて、リフォームすることに致しました。
一般に広く使用されている建材は、食べ物と同じく、にせものやごまかしに満ちています。
洋室によく使用されるフローリング材などは、南洋材を薄く切ったものを何枚か接着剤で張り合わせ、表面だけごく薄いきれいな木目の板(フィルムと言ったほうが良いかもしれません)を貼り、ウレタン塗装等をしたものが大半です。これらは最初は美しいのですが、時を経るにつれてだんだんと見苦しくなっていきます。また、木材とはいえ内部は合成樹脂などが多く含まれていますから、本来の木の質感や、香り、吸放湿などの諸効果は全く望めません。また、原料の木材もほとんどが輸入物ですので、このような建材を多用することは、日本の林業を衰退させ、また経済力に物を言わせて外国の資源を枯渇させることにもつながります。和室に目を向けても、畳表のイグサはほとんどが中国産で、日本では許可されないような農薬が使われているかもしれません。知人が、最近新しくした畳で皮膚がかぶれると言っていました。また、畳の内部は伝統的には藁の床ですが、最近では発泡スチロールやベニヤ板で作られるようです。
その他、一見土壁に見えるビニールクロス、天井はプリント杉板など、このようなコピー建材では和室のくつろぎは望めません。本物の建材を使えば、多少のコストアップにはなりますが、少し長い目で見ればどちらが得か明らかです。住宅も本物をできるだけ長く使い、再利用も考えてできるだけ資源の有効利用に努めたいものです。
私共のリフォームにあたっては、当店の商品づくりと同じように、化学的なものをできるだけ排除し、自然素材の良さを活かし、人と環境への優しさを重要視しました。
有害な物質を含んだ建材や塗料を使用しない
床板や腰壁などの木材は国産の無垢材を使う
壁は上塗りであっても土壁にする
蛍光灯は極力使用しない
一部屋でも和室を作る
小さくても庭を作る
これまで使ってきた家具や陳列什器をできるだけ再利用する
屋上を緑化し雨水を活用する、
などを基本的な考えとしています。
具体的には、店舗床は厚さ3cm の国産松材、腰壁は国産の杉板、塗料は木の呼吸を妨げないよう柿渋とベンガラを墨で調色したもの、外壁は一般的な吹き付け塗装をしてあった上から本しっくい塗り(厚さ約1cm)、内壁はビニールクロスをはがして土佐しっくい塗り、天井も既存のものを撤去してしっくい塗り(京壁 佐藤左官様施工)、メインの照明は、目に優しくあたたかい光のコクヨ製船舶用耐震白熱電球(レストラン 豚玉様に教えていただきました)、陳列什器・看板・建具やエアコンまでも従来使っていたものを再利用、夜間金庫跡には旧店舗の石燈篭を使った坪庭、という具合です。唯一あたらしく作ったものは、店舗外側に楠の丸太をくりぬいて、メダカが泳ぐ、植栽空間です(藤井植物園様の設計・施工)。この植栽空間は当店の前を通行される方々の無料休憩所にもなっています。この長い空堀商店街には、ちょっと腰を掛けられる場所が意外に少ないので、少しはお役に立てているのではないかと思っています。
来店されたお客様から「なんだか気持ちがいい」と言われると、食べ物も建築も自然が一番、伝統・国産を大切に、との思いがいっそう強くなります。
(了)