こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

書籍『土居家のレシピと昆布の話』

 

こんぶ土居では、過去に書籍を出版しています。

「土居家のレシピと昆布の話」という本です。

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形式としては、レシピ本のようになっていますが、むしろその他にお伝えしたいことが多く、様々なことを書きました。「昆布の話」、の部分ですね。

 

現在刷り上がっている分は既にほぼ完売状態、出版社にも在庫がないようです。

そうなれば、通常は新しく刷るわけですが、特殊な製本にしましたので印刷会社さんが対応できないらしく、残念ながらその目途がついていません。

出版社さんでも、なんとかできないかと取り組んで下さっていますが、どうなるか分かりません。

 

実はこの本、中国語に翻訳されて、台湾と香港でも出版されています。

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翻訳発行された当時、台湾で出版記念イベントも開催して下さって、私が出向いてご説明したのも思い出深いです。

 

残数が少なくなっている本ですので、ネット書店などでも入手しづらいかも知れませんが、こんぶ土居では、まだ少し在庫を抱えています。

ご興味があれば、ご一読下さい。

店頭には、立ち読み用もご用意しています。

 

 

 

 

本物の梅干し

梅干しは、素晴らしい食品です。

そのままでは食べられない梅を、長い時間をかけて白いごはんと無敵の相性を見せる食品に変える。

古くからの日本人の知恵が生きた食卓に欠かせない伝統食ですね。

 

本来の梅干しの作り方は、シンプルです。

適切な量の塩を梅と合わせ、長い時間をかけてゆっくり熟成させます。

その後、土用干しをしてできあがりですね。

 

ですので、梅干しに必要な材料は、梅と塩と風味や色を付ける赤紫蘇だけです。

ただ、普通のスーパー等で市販されている梅干しは、ほとんどが伝統的な本物でない製品ばかりです。

 

ご興味があれば、スーパーやコンビニへ行って売られているものの原材料表示をご覧になって下さい。

謎の成分がたくさん表示されています。

例えば、ある製品の原材料表示は、下記のようになっていました。

 

『梅、しそ葉、漬け原材料(果糖ぶどう糖液糖、食塩、しそ液)、酸味料、清酒、調味料(アミノ酸等)、野菜色素、ビタミンB1、甘味料(スクラロース)』

 

恐らく、このような製品は、塩漬けの終わった梅を、塩抜きのために水に浸し、その後に混合調味料で味をつける、といった作り方なのではないかと思っています。

本来の美味しい梅干しの味を抜いてしまって、他の調味料で補うわけです。

なんとも変な話です。

 

 

減塩志向や、食事制限が必要な方もありますので、特殊な事情があるのは理解できます。

ただ、市販されるほとんどの製品がこんな感じで、本物が少ししかないというのは、なんとも嘆かわしいところです。

 

甘いとか酸っぱいとか、そんな単純な評価基準ではなく、昔ながらの梅干しの良さを理解して下さる方が多くなればと願っています。

 

昨日の投稿でお知らせした季節商品「青梅入り昆布」の原料の梅をご用意して下さった、和歌山の三幸農園さん。

素晴らしく美味しい梅干しを作っておられます。

こんぶ土居でも常時販売しております。

是非お試し下さい。

 

 

 

 

 

季節商品、青梅入り昆布

昆布屋は季節感に乏しい仕事ですが、少しだけ季節商品も製造しています。

春には竹の子、秋には柚子、そしてこの季節は青梅入りの昆布の佃煮を製造しています。

甘酸っぱい味ですので、他の佃煮製品とはかなり印象が変わりますが、梅雨時のじめじめした感じに、少し清涼感をもたらしてくれるような味かと思います。

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原料となる梅は、和歌山県で素晴らしい梅干し製品等を製造されている三幸農園さんに分けていただいています。

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今年は、青梅が大不作だそうです。

梅酒メーカーなどが、血眼になって原料集めをしているようです。

そんな中、三幸農園さんが私共のために原料をご用意いただけることは、非常にありがたいことです。

 

天然真昆布も連年の不作、梅まで不作。

たいへんです。

昆布の不作の事は、私共にとって本当に大切なテーマですので、改めて詳しく書く日を設けます。

 

今年の青梅入り昆布は6月19日の販売開始を予定しています。

次回は、三幸農園さんの梅干しの美味しさと、一般的な梅干しとの違いについて。

 

 

 

とろろ昆布③黒と白

前回の「とろろ昆布②」の続きです。

 

例えば、

「黒おぼろ」とか「白おぼろ」、

「黒とろろ」とか「白とろろ」。

言わずもがな色の違いですが、その色の違いはどこから生まれてくるのでしょう。

 

赤いリンゴをイメージして下さい。

赤く見えても、それは皮だけですね。

中身は白い。

昆布も、皮が黒いだけで中身は白に近い色合いです。

 

つまり、酢で柔らかくした昆布の表面を手加工で薄く削りだす際、最初に出てくるのは皮の部分であり、それが黒いのです。

「黒おぼろ」「黒とろろ」ですね。

 

昆布の裏表とも、刃物を数回動かして何回か削りだしたら、もう昆布には皮がなくなって白い状態になります。

そればかりを集めておいて、同じ仕事をすれば、白いものが削り出されます。

これが「白おぼろ」「白とろろ」です。

 

つまり、色が黒いのは皮の部分が含まれているから、色が白いのは皮の部分が含まれていないから、ということです。

 

味の傾向の違いは、下記の通りです。

「黒」

比較的昆布の味が濃い。

塩分やお酢の味も強い。

「白」

淡く上品な味。甘く感じる。

塩分も酢の味も穏やか。

 

 

手作業で削っていくと、昆布はどんどん薄くなっていきます。

そして、最後には薄い薄い「白板昆布」が残ります。

よく鯖寿司なんかに使われる昆布ですね。

 

つまり、手作業で削る昆布は、「黒」「白」「白板」の3つの部分に分かれるわけです。

 

機械で削った昆布は、手加工の「黒」「白」「白板」が全部一緒になって削りだされてきます。

こちらは、黒の部分が混じっているとは言え、全体としては白く見えます。

味も、三つの部分の平均的な味と言えるでしょうか。

機械とろろは、お酢の含有量は手加工に比べて少なめなので、酸味はそう感じないかと思います。

 

現在では、昆布の手加工の職人さんは、非常に少なくなりました。

こんぶ土居でも、削っていますが、たくさんは作れません。

 

特殊な用途でなければ、基本的には機械とろろでよろしいかと思います。

加工方法によって生まれる僅かな食感の違いより、昆布とお酢の品質の方が、よほど大切なのではないかと思っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とろろ昆布②古き良き道具

 

6月13日の、とろろ昆布①では、機械で削るとろろ昆布のことをご説明しました。

本日は、手作業で削るとろろ昆布のお話です。

 

古い時代に機械削りはないので、その頃のとろろは、全て手作業だったはずです。

その手作業自体は、13日に紹介したYouTube動画の「おぼろ昆布」の製造方法とほとんど変わりません。

酢で柔らかくした昆布を一枚ずつ専用の刃物で削っていくわけです。

大きな違いは、その刃物の先端です。

 

まず、「おぼろ昆布」と「とろろ昆布」の違いは何でしょうか。

それは、単に形状の違いです。

前者は「帯状」で、後者は「糸状」と言えば良いでしょうか。

http://www.konbudoi.info/main/shohin_tororo.html

 

機械で削るとろろ昆布は、昆布の表面ではなく断面を削るから、自然と糸状になるわけです。

 

では、手加工の「とろろ昆布」を作るには、どうすれば良いでしょうか。

答えは簡単。

手加工の「おぼろ昆布」で使う刃物を、先端をノコギリ状に細工すれば良いのです。

細かいノコギリ状の刃で削れば、縦に細かく裂けたような状態で昆布が削り出され、つまりそれは糸状であるわけです。

 

その、刃先をノコギリ状に加工する道具があるのですが、とても魅力的です。

これは、こんぶ土居が手作業でとろろ昆布を製造する際に使用している古い道具です。

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なんとも面白い構造です。

シンプルですが、堅牢で造形美を感じます。

この道具に刃をセットしてハンドルを回すだけで、細かく目が打たれノコギリ状になります。

 

youtu.be

 こんな道具は、今は日本中どこでも製造されていないと思います。

簡単に故障するものではないので、これからも大切に使い続けていきたいと思います。

 

次回は、とろろ昆布類の、白と黒の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とろろ昆布①つくり方

とろろ昆布は、一般的な食品ですが、製法をご存じの方は少ないのではないでしょうか。

お酢に浸した昆布を圧縮して固め、大きなブロックのようにしてから機械で削ります。

言葉では伝えづらいところもあるのですが、YouTube上に面白い動画を見つけました。

非常にわかりやすいです。

https://www.youtube.com/watch?v=lqN6B1F9ldU

 

本来のとろろ昆布の原料は、昆布と酢です。

良い昆布と良い酢を使えば、この二つの材料だけで素晴らしく美味しいものができます。

ただ、一般市販品では、粗悪な原料の性質をごまかすために、様々な副原料が使われる場合があります。

 

特に、酢に関しては、まともな純米酢を使って作られるとろろ昆布は、かなり稀です。

昆布がうまみ成分のかたまりのような食品ですので、粗悪な酢でも、なんとなくごまかせてしまうのです。

冗談のような話ですが、今でも醸造酢ではなくて、氷酢酸を薄めたものなどが平気で使われます。

 

こんぶ土居のとろろ昆布は、100%静置発酵の純米酢だけで仕込んでいます。

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酢の選び方についても、また後日このブログで書きたいと思います。

 

次回は、手加工とろろ昆布のための、素敵な古い道具のお話。

 

 

 

 

 

 

 

店舗内装【建築について】

こんぶ土居は、1903年の創業以来117年目の営業になりますが、もともと現在の場所であったのではありません。

平成17年に移転してきたものです。

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その際に、店舗内装の工事をしましたが、こんぶ土居の食品づくりと同様に、できるだけ自然素材で構成するようにしました。

当時三代目が、「建築について」と題して書いた文章がありますので下記にご紹介致します。

 

 

〇こ ん ぶ 土 居 通 信 №13 平成 17年8月発行【建築について】

 蜆橋(現在の梅田新道)で昆布屋を営業していた当店の創業者 土居 音七は明治42年の北の大火で罹災し、空堀へ移転することになりました。

こんぶ土居では、それ以来当時の建物を改修しながら使ってきましたが、老朽化がひどく建て直しを考えていました。

健康な生活を送る上で最も大切なものは食べ物で、次は住居だと考えておりますので、かねてから住宅に関する本を読むなどして、情報を集めておりました。

新しい工法や、近年脚光を浴びる外断熱工法も検討致しましたが疑問点もあり、最終的には伝統工法が最良であるとの結論に達しました。

しかし、狭小地をいかに有効的に使うかに頭を悩ませておりましたところ、五軒となりの閉鎖された信用金庫の建物を使わせていただけることになりました。

築50年の鉄筋コンクリート造ですが、これまであたためてきた建築への理想を込めて、リフォームすることに致しました。

一般に広く使用されている建材は、食べ物と同じく、にせものやごまかしに満ちています。

洋室によく使用されるフローリング材などは、南洋材を薄く切ったものを何枚か接着剤で張り合わせ、表面だけごく薄いきれいな木目の板(フィルムと言ったほうが良いかもしれません)を貼り、ウレタン塗装等をしたものが大半です。

これらは最初は美しいのですが、時を経るにつれてだんだんと見苦しくなっていきます。

また、木材とはいえ内部は合成樹脂などが多く含まれていますから、本来の木の質感や、香り、吸放湿などの諸効果は全く望めません。

また、原料の木材もほとんどが輸入物ですので、このような建材を多用することは、日本の林業を衰退させ、また経済力に物を言わせて外国の資源を枯渇させることにもつながります。

和室に目を向けても、畳表のイグサはほとんどが中国産で、日本では許可されないような農薬が使われているかもしれません。

知人が、最近新しくした畳で皮膚がかぶれると言っていました。

また、畳の内部は伝統的には藁の床ですが、最近では発泡スチロールやベニヤ板で作られるようです。

その他、一見土壁に見えるビニールクロス、天井はプリント杉板など、このようなコピー建材では和室のくつろぎは望めません。

本物の建材を使えば、多少のコストアップにはなりますが、少し長い目で見ればどちらが得か明らかです。

住宅も本物をできるだけ長く使い、再利用も考えてできるだけ資源の有効利用に努めたいものです。

私共のリフォームにあたっては、当店の商品づくりと同じように、化学的なものをできるだけ排除し、自然素材の良さを活かし、人と環境への優しさを重要視しました。

 

有害な物質を含んだ建材や塗料を使用しない

床板や腰壁などの木材は国産の無垢材を使う

壁は上塗りであっても土壁にする

蛍光灯は極力使用しない

一部屋でも和室を作る小さくても庭を作る

これまで使ってきた家具や陳列什器をできるだけ再利用する

屋上を緑化し雨水を活用する、などを基本的な考えとしています。

 

具体的には、店舗床は厚さ3cm の国産松材、腰壁は国産の杉板、塗料は木の呼吸を妨げないよう柿渋とベンガラを墨で調色したもの、外壁は一般的な吹き付け塗装をしてあった上から本しっくい塗り(厚さ約1cm)、内壁はビニールクロスをはがして土佐しっくい塗り、天井も既存のものを撤去してしっくい塗り(京壁 佐藤左官様施工)、メインの照明は、目に優しくあたたかい光のコクヨ製船舶用耐震白熱電球(レストラン 豚玉様に教えていただきました)、陳列什器・看板・建具やエアコンまでも従来使っていたものを再利用、夜間金庫跡には旧店舗の石燈篭を使った坪庭、という具合です。

唯一あたらしく作ったものは、店舗外側に楠の丸太をくりぬいて、メダカが泳ぐ、植栽空間です(藤井植物園様の設計・施工)。

この植栽空間は当店の前を通行される方々の無料休憩所にもなっています。

この長い空堀商店街には、ちょっと腰を掛けられる場所が意外に少ないので、少しはお役に立てているのではないかと思っています。

来店されたお客様から「なんだか気持ちがいい」と言われると、食べ物も建築も自然が一番、伝統・国産を大切に、との思いがいっそう強くなります。