こんぶ土居店主のブログ

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ネリ節って、なんだ?

「ネリ節」という物をご存知の方は、その業界の方を除き、ほとんどおられないと思います。

私も今年初めて知りました。

 

「ネリ節」とは、簡単に言えば、鰹節に似せた魚肉の加工品です。

鰹節問屋さんにご協力いただき、取り寄せてみましたが、こんな見た目をしています。カリントウみたいで鰹節とは、随分違いますね。

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鰹節をつくる際には、まず生の鰹を捌きます。

昔は職人さんが手作業で捌くことが多かったようですが、今では機械で加工することもできます。

その際には、言わば鰹のクズ肉が出るわけです。

それを寄せ集めて鰹節に似せて作ったものが「ネリ節」です。

鰹以外の魚肉で作ることも可能です。

場合によっては、内臓や骨などの一般には不可食部分とされるものを混ぜることもあるようです。

 

特許情報として、ネリ節の製造方法が分かりやすく書かれているものがありましたのでご紹介します。

https://astamuse.com/ja/published/JP/No/1995322859

 

こういった製品にも、全く存在価値が無いかと言えば、そうではありません。

漁業資源が枯渇傾向にある今、限られた資源を余すことなく有効活用するためだと言われれば、そのような側面があるのは事実でしょう。

しかし、同時に問題点もあります。

 

一番の問題点は、このような製品が圧倒的に安価で、ある一側面に於いては伝統的な鰹節を凌駕してしまうことです。

消費者にとって安価であることは歓迎すべきことでしょうし、それ自体は何も問題ないのですが、少なくとも伝統的な鰹節との違いが理解されないと、価格競争に敗れて伝統産業が滅びていくことにつながります。

 

本物を凌駕する一側面とは、「うまみ成分の量」です。

これは、単純に「鰹節よりおいしい」ことを意味しませんが、非常に強いうまみを呈す場合があるのは事実です。

 

ご紹介した特許情報は非常に長いので、要点をご紹介します。

ネリ節製造で、うまみ成分を増やすための方法としては、主に、

 

酵素剤の使用

②食品原料に分類されるうまみ調味料の添加

 

この二つです。

②の問題点は後日記しますが、表示免除の件については2020年5月27日投稿の「表示を免除されるもの①」をご参照下さい。

https://astamuse.com/ja/published/JP/No/1995322859

 

本日は、①の酵素剤の使用が、どのような仕組みでネリ節のうまみ成分を増やすのかをご紹介します。

まず、うまみ成分の正体とは、主にアミノ酸です。

アミノ酸は、数多くの種類があり、そのうち20種類はタンパク質の構成要素になります。

だいたい50個以上のアミノ酸が結合したものがタンパク質と呼ばれ、それ以下のものはペプチドと呼ばれます。

タンパク質には味がありませんが、ペプチドやアミノ酸はうまみを呈するものがあります。

代表的なものは、古くからうまみの効果が知られたグルタミン酸です。

これは、昆布のうまみ成分の代表的なものであると同時に、そのナトリウム塩として化学調味料の成分でもあります。

 

先に書いたように、アミノ酸がたくさん結合するとタンパク質になるわけですから、逆に言えば、タンパク質を分解すればアミノ酸を取り出すことができるわけです。

ここで、その役割を果たすのが酵素です。

 

酵素は、人間の体の中でも大切な働きをしています。

食物として取り入れたものは消化しないと吸収できませんので、そこでも酵素が働きます。

代表的なところでは、でんぷんを糖に変えるアミラーゼ、脂肪を分解するリパーゼ等は、よく知られています。

同様にタンパク質を分解する酵素は、プロテアーゼと総称されます。

 

ネリ節の原料である魚のクズ肉に、酵素剤としてプロテアーゼを混ぜれば、魚肉のタンパク質が分解されてアミノ酸が出てきます。

つまり、このようにして製造したネリ節は、伝統的な鰹節より圧倒的にうまみ成分の量が多いのです。

これが前述の、「伝統的な鰹節を凌駕する一側面」です。

 

食品添加物としての酵素剤は多種多用で、安全性の懸念があるものも存在しているようです。

また、5月28日投稿の「表示を免除されるもの②」でご説明した通り、キャリーオーバー解釈にて表示義務もありません(ネリ節製造段階で加熱され、失活するため)。

https://konbudoi4th.hatenablog.com/entry/2020/05/28/182056

 

この用途以外でも酵素剤は、様々な用途で利用されることが急激に増えています。

多くの場合、伝統的な製品づくりの問題点を簡単に解決する可能性があります。

その是非をどう判断されるかは個人の考え方次第ですが、昔ながらのものづくりをする生産者が相対的に低く評価されるリスクを抱えています。

また、加熱される食品については原材料として表示されないことも気がかりです。 

 

このネリ節は、一般に市販されることはまずありません。

加工食品の原材料として使用されます。

 

次回の投稿では、このような製品の主な用途と問題点を「エキスとだしの違い」と題して書く予定です。

今日のところは、まずネリ節とはどのようなものであるのかと、タンパク質と酵素アミノ酸の関係をご理解いただければと思います。