こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

【昆布だしの味 vol.1/3】味のキレって何? ダシと酒について

(今回の投稿から、3回ぐらいに分けて、昆布だしの味に関係する話を書きます)

 

 

味を表現する際に「キレが良い」などと言うことがあります。

そもそも「キレ」とは何でしょうか。

 

明確に定義することは難しいですが、「どれだけ後味が尾を引くか」を指し、つまり味が後を引かずスッと消えるようであれば「キレがある」と表現されるようです。

実は、だしの世界でも「キレ」という言葉が使われることがあります。

 

 

しかし後味の持続も、その性質によって良し悪しが変わってくるでしょう。

あまり好ましくない味であるなら、すぐに消えてくれた方が良いでしょうけれど、逆に良い後味であるなら、それは「余韻」として味わっていたいものですね。

 

 

「キレ」という言葉が最もよく使われる場面は、お酒の世界です。

「ビール」「日本酒」「ワイン」、この三つの酒について、「味のキレ」の観点から考えてみたいと思います。

 

 

【ビールの場合】

まず、ビールの本場として真っ先にイメージされるのはドイツでしょう。

ドイツには、本当に豊かな味わいのビールが多く、文化的な懐の深さを感じます。

それに倣い、日本でも多くのメーカーが醸造を始めた歴史かと思いますが、日本のビールは、言ってみれば「独自進化」してきたものだと言えるでしょう。

  

その代表的なものが、日本発祥の「ドライビール」です。

1987年に「アサヒスーパードライ」が発売され、他メーカーも続々とドライビールを発売し、それは「ドライ戦争」と呼ばれるような熾烈な販売合戦になりました。

アサヒスーパードライ」は、今でも定番ビールとして販売されていますね。

 

そもそもドライビールとは何かと言えば、明確な定義はありませんが、だいたい下記のような特徴を持つようです。

①原材料として、麦芽を少なくして、米やコーンスターチなど副材料を高めに配合。

②新開発した醸造法や酵母を用いてアルコール度数を高めにする。

③味わいとしては、「キレ」や「辛口」が特徴。

 

アサヒスーパードライ」も、別に何も悪いものではありませんし、ひとつのプロダクトとしては非常に良くできていると思いますが、私には何かビールというより、「アルコール入り清涼飲料」のようなイメージにも感じられます。

「味わう」というよりは、一気に流し込んで「喉で感じる」ような傾向もあるかと思います。

かつては平気で行われていた「一気飲み」などの、乱暴な飲み方に適したビールだったのかも知れません。

 

アサヒスーパードライ」のウェブサイトには、「さらりとした飲み口、キレ味さえる、いわば辛口の生ビールです」と書かれています。

どうやら「キレ」と「辛口」、この二つは遠くない価値観のようです。

 

また、ビールと発泡酒のカテゴリーの違いは麦芽の使用量によるものです。

つまり、ドライビールは麦芽割合を少なくしているので、発泡酒寄りだと言うこともできそうです。

 

 

【日本酒の場合】

アサヒスーパードライは「キレ」と「辛口」だということですが、「辛口」は、ビールよりも日本酒に用いられがちな言葉でしょう。

  

居酒屋さんなどで日本酒を選ぶ際、「辛口でお願いします」と言う方がいます。

辛口のお酒は「ツウ」であり、甘味のある酒は「初心者向け、子供っぽい」というような、不思議な認識を持つ方は今でも意外にいるものです。

言ってみれば、「辛口信仰」ですね。

  

これは、日本酒が辿った不幸な歴史も関係しています。

戦中戦後の米不足の時代、食べる米すら足りていない中で、ふんだんに米を使った酒など、作れるはずがありません。

そこで出てくるのが「三増酒」と呼ばれるようなまがいものです。

純米酒のもろみを薄めて酒をつくるわけですが、醸造アルコールに加え、様々な糖類や酸味料、うまみ調味料などを加えられます。

味としてはベタベタした甘さのものが多かったようで、その反動として後に、端麗辛口でキレのある酒が過度に評価された傾向があるように思います。

 

 

【ワインの場合】

ワインは外国のお酒ですから、当初は日本人に理解されなかったとしても不思議はありません。

特にワインに含まれる渋味や酸味などは、日本酒とかなり傾向の異なる味ですから、違和感を感じる日本人も多かったはずです。

そんな背景で、日本酒の三増酒のように、輸入したワインを水で薄めて醸造アルコールを加え、他の副原料を添加するタイプの「ワインもどき」が生まれます。

明治40年に発売されたサントリーの「赤玉ポートワイン」などは、その代表例でしょう。

ポルトガルで伝統的につくられたきた本物の「ポートワイン」とは全くの別物ですが、渋味や酸味がなく甘く味付けされた「赤玉ポートワイン」は大ヒット商品になりました。

そんな「甘口ワイン(もどき)」の時代から、徐々に辛口のワインも理解されるようになったことは良いのですが、それが行き過ぎて、伝統的な甘口ワインまで「キレが悪い、初心者向け、子供っぽい」と考える人も出てきたように思います。

 

 

 

三種のお酒について考えてみましたが、なんとなく似たような傾向があるように思われませんでしょうか。

味の評価も、世相を反映しているように思います。

特に外国の文化については、初期段階には理解が浅くなってしまうのも仕方のないところですね。

 

今では、豊かな味わいの日本のクラフトビールなどもたくさん作られるようになりました。

日本酒の辛口信仰がバカバカしいと考える人も増え、以前のように吟醸酒が過度にもてはやされることもなく、自然な甘味があるお酒の良さも理解されるようになりました。

過去に投稿しました「ヴィナイオータ」さんのナチュラルワインなどは、言わずもがなです。

実に豊かな広がりのある長い余韻を感じるワインが非常に多いです。

「キレ」「辛口」などと言った薄っぺらい価値観でなく、時代とともに、だんだん理解が進んできたのでしょう。

 

 

他の調味料などでも、実は似たような傾向を見せるものもあります。

甘味をつける用途で、特に清涼飲料水などには「ぶどう糖果糖液糖」が多用されますが、これは砂糖よりも「キレがよい」と評価されています。

人口甘味料とて同じです。

お酢を例に取ると、良い酢は豊かな丸い味わいですが、安価な大量生産品はただ酸っぱいだけで、しかし見方を変えればシャープでキレのある味わいと評価することもできるわけです。

 

こんな状況を、どのようにお考えになりますでしょうか。

 

 

私共は昆布屋ですので、だしの味を見るわけですが、構図は似ています。

大阪では古くから昆布の味わいとして、「辛口」や「キレ」でなく、うまみと甘味を兼ね備えたものが求められてきました。

その一方で、プロの料理人さんでも「だしの味のキレ」に言及される方もいます。

「夏には、清涼感を感じられるように、だしをキレのある味に」などと仰る方もありますが、それは冬場との比較の相対的なものでしょう。

強烈な力を発揮するうまみ調味料全盛のこの時代ですから、「ベタベタしたうまみ」、はそこらじゅうに溢れています。

その一方で、自然の素材だけで、相対でなく実質的に「暑苦しい味のダシ」など、存在するでしょうか。

 

 

こんぶ土居では今後も、「良い余韻に浸れるような豊かな厚みのある味わい」を追求します。

だしに「キレ」なんて本当に必要なのか、よく考えてみる必要があるように思います。

 

(次回、【昆布だしの味 vol.2/3】魯山人を鵜呑みにしないで(だしの取り方) に続きます)

 

 

劇的美味!昆布バター

 

これまで、あまりレシピのようなものはご紹介して来ませんでしたが、今回は面白い昆布の使い方と、それを知るに至った経緯についてのお話。

 

タイトルの通り「昆布バター」、使うのは昆布粉末です。

 

 

 

大阪の淀屋橋に「コホロエルマーズグリーンコーヒーカウンター 」というお店があります。

 

 

 

数年前に、そちらの店長さんが私共を訪問され、「業務用で昆布の粉末を購入できないか」とご相談下さったのです。

その際、「何にお使いですか」とお尋ねしたところ、バターと混ぜるとのこと。

そんな使い方をしたことがなかったので、とても驚きました。

後日、有難いことに、わざわざ昆布粉バターを使ったタマゴサンドを持って来て下さったのですが、味を見て本当に美味しくて驚きました。

不思議なほどの好相性です。

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ただ、自分でも迂闊だったと思うのは、過去に類似のものは経験していたのです。

私の友人の料理人が、フランスで仕事をしていたとき、帰国時にバターをお土産にくれていました。

なにしろフランスのバターの品質は素晴らしいです。

日本のものと何が違うのか分かりませんが、やはり本場はすごいのです。

そんなお国柄ですので、フレーバーバターも多く販売されています。

お土産で頂いたものの中には「海藻バター」もありました。

その海藻に昆布が含まれているかどうかは分かりませんが、その時に、昆布とバターの相性について気づくべきだったと思うので、悔しいものです。

 

 

 

前述の「コホロエルマーズグリーンコーヒーカウンター」さんでは、一昨年「だしの取り方教室」を開催させていただいたり、現在でも有難いお取引が続いています。

 

昆布粉バターは、柔らかくしたバターと昆布粉を混ぜるだけですので、とても簡単です。

「コホロエルマーズグリーンコーヒーカウンター」さんは、レシピを公開しておられます。

下記ご参照いただき、是非その不思議な美味しさを体験してみて下さい。

驚かれると思います。

 

(とは言え、乳製品の取りすぎにはお気をつけ下さい(特に女性)。 そんなお話は、また後日に投稿致します。)

 

info.envelope.co.jp

 

 

 

 

 

 

 

(学び)昆布の佃煮を炊いてみて下さい

 

 

こんぶ土居の店頭では、量り売りで3センチ角ほどの四角形に切った昆布を販売しています。(オンラインストアでは販売していません)

お客様から、「これは何に使うのですか」とお尋ねいただくことが、多々あります。

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大阪では古くから昆布の佃煮が名物でした。

昆布自体の産地は北海道なのに、「大阪名物」なのです。

今は下火になりましたが、特にご高齢の方には大阪土産の定番と認識されているのは間違いありません。

いかに昆布文化が大阪に深く根差したかが、分かる事例です。

こんな土地柄ですので、家庭で昆布の佃煮を炊く方も多かったのです。

つまり、前述の角切りの昆布は、ご自宅で昆布の佃煮を炊くための材料としてご用意しているものです。

 

 

家庭の鍋と熱源で、何の問題もなく炊くことができます。

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調味料の配合などは、お好みで変えていただければ良いのですが、家庭の鍋で作りやすい量でシンプルなものを載せておきます。

 

昆布 200g

濃口醤油 200cc

みりん 50cc

水 800cc

(醤油もみりんも、ぜひ伝統製法の本物をご用意ください。)

 

だいたい昆布の5倍量の調味液で炊くとお考えいただければ良いと思いますが、鍋のフタの密閉性や、火の強さで変わります。

 

炊き方は、とても簡単

①角切りの昆布をさっと洗ってざるにあげておく。

②水と調味料を全て鍋に入れて、沸騰させる。

③沸騰後、アクが出てきたら、取り除く。

④昆布を投入し、強火のまま再沸騰させる。

⑤火力を、なんとか沸騰を維持できる程度の極弱火に落として、蓋をして約二時間ほど加熱する。(たまに、底から混ぜて下さい。味見をして固ければ時間を延長して下さい)

⑥調味液のほとんどが昆布に吸い込まれたらできあがり。

 

これだけのことです。何も難しいことはありませんね。

 

タイトルに、「昆布の佃煮を炊いてみて下さい」と書きましたが、理由はかんたん。

本当に素晴らしくおいしいからです。

甘さに頼ることなく、ほとんど醤油だけで炊いているにも関わらず、しみじみと力強い美味しさを感じていただけるはずです。

改めて昆布は、すごい海藻です。

 

上記の分量でも、けっこうたくさんできますから、おすそ分けも良いと思いますし、冷蔵庫では長期間保存することができます。

あまり少ない量で炊くと、上手に仕上げるのが難しくなるかもしれません。

 

 

そして、ここから得られる「学び」がひとつ。

ご自分で最高の原料を揃えて炊いた自家製昆布佃煮と、市販品との味が、全く異質なことにお気づきになるはずです。

美味しいとかまずいとか、そういった話ではなく、『異質の味』なのです。

例えばデパートなどで、贈答品として高級そうに売られているものとて同じです。

 

これはつまり、市販品は「原材料の何かが違う」ということです。

原材料表示には抜け道がありますから、人工的なものが何も入っていないように見える製品があるかも知れません。

しかし、隠れている物の存在を、味の違いが示してくれます。

(原材料表示の抜け道に関しては過去投稿をご参照ください)

2020-05-27投稿 表示を免除されるもの① 原材料の原材料

2020-05-28投稿 表示を免除されるもの② キャリーオーバー

2020-05-29投稿 表示を免除されるもの③ 加工助剤

2020-05-30投稿 表示を免除されるもの④ 栄養強化目的

 

 

その一方で、もしよろしければ、こんぶ土居がつくる昆布の佃煮の味も見て下さい。

(昆布佃煮、ふりかけ等 - こんぶ土居オンラインストア)

家庭で上手に炊けたものと、同じ傾向の味がするはずです。

こうなる理由を、ぜひ想像して頂きたいところです。

 

 

やはり、自分で料理することは本物を知るために、とても大切です。

昆布の佃煮を炊いて体験することで、食品業界にありがちな裏側も、なんとなくご理解いただけるようになるかと思います。

 

 

 

だしの用途だけでなく、天然真昆布は、佃煮にしても最高です。

天然物と養殖物は、味だけでなく食感も大きく違うのです。

だしをとる際には、味の違いは感じても食感の違いはわかりませんね。

不作続きの天然真昆布。

本当においしい昆布の佃煮が食べられるのは、今のうちかも知れませんよ。

是非お試し下さい。

 

 

(余談)

昆布の佃煮は、大阪では「塩昆布」と呼ばれます。

しかし今は、細切りになって乾燥した状態のものを、そう呼ぶことが多いようです。

これは私共の認識では「塩ふき昆布」です。

つまり、濡れている状態の佃煮が「塩昆布」であり、乾燥して表面に粉が浮き上がっているものが「塩ふき昆布」です。

この本来の呼び方を続けたいですが、世間の認識が変わってきているので、少し悩みます。

 

しおふき昆布 - こんぶ土居オンラインストア

 

 

 

 

「KONBU」でなく「KOMBU」?

予防線を張るようですが、今日の投稿は、どうでも良いような話です。

 

前回のブログでご紹介しました、ローカルカルチャースクール.jpの「だし文化プロジェクト」。

https://localcultureschool.jp/products/movie02

 

動画には、海外の方にもご理解いただけるように、英語字幕がついていました。

その中で、昆布は「KOMBU」と表記されています。

個人的には、「こ・ん・ぶ」なのですから、「KO・N・BU」でないのかと思うのですが、NでなくMが使われています。

 

どうしてこうなるのか、少し理由を調べてみますと、ローマ字表記には「ヘボン式」と呼ばれる方法があり、その中で「撥音:B、M、Pの前の「ん」は、NではなくMで表記する」決まりがあるようです。

 

こうなる背景には、発音に関する話があるようで、色々と読んでみましたが、よく分かりません。

英語の単語では、必ずしも「撥音の前ではNでなくM」というわけではありません。

例えば、「INPUT」と「IMPORTANT」。

INPUTは、撥音である「P」の前に「N」が来ていますね。

 

ヘボン式の記載ルールはあるにしても

「こ・ん・ぶ」の「ん」は、ひらがな50音の「ん」

「KO・M・BU」になるのは

個人的には違和感があります。

 

こんぶ土居は、これからも「KONBU DOI」 です。

 

 

【お知らせ】Dashi Culture Project だし文化プロジェクト

地域文化の魅力の再発見、継承のためのウェブサイト「ローカルカルチャースクール.jp」。
文化庁の委託事業の第一弾として「だし文化」について、5本の動画が制作されました。
こんぶ土居は、大阪の昆布文化や現在の海産物が抱える課題についてお話させていただいています。
宜しければ、下記サイトから動画をご覧ください。

《大阪昆布文化と未来の話》localcultureschool.jp


動画視聴にあたり寄付金を募っていますが、0円を選んでカートに入れていただければ、無料で視聴することもできます。

 

 

改めて、ヴィナイオータのワイン

前回のブログ投稿で、味を正しく評価することの難しさについて書きました。

今日のお話も、それと少し関係しています。

 

味覚上の判断をしなければならないものはたくさんありますが、その中でもワインは「味の評価軸」が比較的明確になっている分野であるように思います。

ソムリエさんは、分析的にワインの味を表現しますし、ワインコンクールでの評価などもありますから。

しかしそれとて「ひとつの権威が設定した物の見方」に過ぎないのかも知れません。

  

2020年11月7日に「燃えるワインインポーター『ヴィナイオータ』」というタイトルで、ブログを投稿しています。


本日は改めて、良いイタリアワインのインポーターであるヴィナイオータさんのお話です。

 

 

まず私はかなりアルコールが弱い体質ですし、日常的にお酒は飲みません。

ですので、ワインについての知識も皆無に等しいでしょう。

詳しくない人間は、ワインを選ぼうにも何を基準にして良いのやらさっぱり分からないものです。

 

 

それが最近では、良いワインを販売しておられるお店へ行って、イタリアコーナーに進み、輸入者が「ヴィナイオータ」となっているものを選んでばかりです。

そうして何種類か試飲させていただいた結果の感想ですが、新しい世界が開かれたように感じています。

どれを飲んでも、素晴らしく楽しい体験をすることになるのです。

 

 

これは、カルチャーショックに近いものです。

今までワインだと思っていた世界のものから逸脱するような味に、度々触れることになります。

恐らくヴィナイオータさんで輸入されているワインは、権威のあるワインコンクールで賞を取ったり、そういったことと無縁のワイナリーのものが多いのではないでしょうか。

むしろ、一部のワインずきの方からは酷評されそうな味のものもあります。

 

しかしそんなワインの味が、なんとも不思議なもので、一瞬違和感を覚え当惑させられるようでありながら、同時に滋味深く、余韻に浸りながら飲み進めてしまうような、不思議な魅力に溢れています。

  

 

また、酒が弱い人間にはよく分かるのですが、体に優しいのです。

所謂ナチュラルワインと呼ばれる世界ですので、ぶどうの栽培方法や醸造方法も非常に自然で、そんなところが関係しているのだと思います。

明確な理屈は分かりませんが、質の悪いお酒ほど体にダメージを与えることは間違いないでしょう。

 

 

改めて、味の評価軸の設定も難しいものです。

前回のブログで、「歴史を伴った、その道の人たちの評価」が大切だなどと書きましたけれど、それとて万全でないことを示しています。

これまでの一般的なワインの味の見方が、悪いと言うことではないにしても、その価値観では評価されなかった世界にも素晴らしいものがあるのです。

 

 

ヴィナイオータのワインに触れてみることは、おいしいとかまずいとか、そんなこと以上の、「食の学び」を与えてくれると思います。

近日こんぶ土居でも、ヴィナイオータさんが輸入された素晴らしいイタリア食材の販売を始めます。

あいにく酒販免許がないので、ワインは取り扱うことができませんが。

これらの食品も、本当に驚くべき品質のものばかりです。

店頭でもネットショップでも販売致しますので、ご期待下さい。

 

 

最後に、ヴィナイオータさんのウェブサイトのトップページに記載されている文章をご紹介したいと思います。

是非ご一読下さい。

やはりものづくりに哲学は必要ですし、作り手だけでなく、世に正しく伝える人の役割も大切だと、改めて思います。

 

 

ヴィナイオータとは

ヴィナイオータは…インポーターです。

同時にヴィナイオータは、僕オータの想いや考えを表現するための場でもあります。

ワインを中心に、生ハム、パスタ、穀類、オリーブオイル、バルサミコ酢やジャム等の保存食も扱っているのですが、それら物質的なモノだけにとどまらず、それらが生み出された背景にある、造り手の想い、哲学、理念さえもしっかり輸入したいと本気で考えているインポーターです。

自然に対して畏怖の念を抱いているのなら、自然環境に最大限の敬意を払った農業を心がけるでしょうし、ヴィンテージやテロワールなど、その年、その場所、その土壌の“自然”が余すことなく反映されたワインを理想とするのなら、醸造時に過剰な介入はしないでしょう。

不思議なことに、このように造り手が“我”を捨てて、その時、その瞬間の良心に従ってできたプロダクトには、唯一無二の個性が付与されます。

年の個性、土地の個性、品種の個性、そしてヒトの個性…

ヴィナイオータは、そういった造り手の良心、覚悟、情熱などが詰まったプロダクトがもたらす感動を皆さんと共有すべく、熱苦しくご紹介することをモットーとしているインポーターです。

ヴィナイオータ代表 太田 久人 

味の評価軸(昆布の粉末のはなし、後編)

 

 

前回の投稿で、臆面もなく「こんぶ土居の昆布粉は品質が素晴らしい」などと自画自賛しておりましたが、「味覚の面で品質が高い」と、何を以て言うのでしょうか。

これは、実は難しいところです。

そう感じさせる事例に、先日遭遇しました。

 

 

こんぶ土居は「良い食品づくりの会」という、食品生産者の研修の集まりの会員です。

http://yoisyoku.org/

 

この会で共に学ぶ会員さんはたくさんおられますが、鰹節屋さんの会員もあります。

私共のネットショップでも小売り用の鰹節を販売しておりますが、その作り手である東京の「タイコウ」さんです。

 

 

良い食品づくりの会には「認定品」というシステムがあり、他の会員によって、ある生産者会員の製品が認定品にふさわしいか審査されます。

先日、この認定審査にタイコウさんの新製品が出品されました。

「いつものだし粉」という製品です。

製品としては非常にシンプルで、鰹節と煮干しと昆布の粉末をブレンドしただけのものです。

だしを取るのがめんどくさければ粉のまま入れてしまってはどうか、というコンセプトですね。

 

 

 

前述の良い食品づくりの会の審査方法は多岐に亘りますが、当然味も見るわけです。

会では「官能検査部会」と呼んでいますが、同カテゴリーに属する他社製品を用意し、比較しながら味が優れているかを確認しています。

 

 

私も味を見せていただいたのですが、比較品とは驚くほどの差がありました。

実は私が比較品を選定したのですが、メーカーによって公表されている素性を参考に、良いと思われる比較品を選んだつもりです。

しかし、タイコウさんの製品は、圧倒的に高品質でした。

おいしさの理由はおそらく単純なことで、良い原料を集めてきたというだけのことだと思います。

昆布の粉は私共で製造したものをお使いいただいております。

煮干しについても非常に高品質なものをご用意され、それを一尾ずつ手で割り、内臓とエラを取り除いて粉末化しているとのことです。

鰹節についてはご専門ですし、そんな原料を使えば美味しくなって当然です。

 

 

「美味しい」と簡単に書きましたが、では、だしの粉末がどんな味であれば「おいしい」と呼べるのでしょうか。

私が「いつものだし粉」を高品質であると申し上げた理由は単純です。

「含まれているべき良い味や香りが強く、同時に雑味が少ない」ということでしょうか。

 

味覚と嗅覚に分けて考えますと。

味覚については、だしには「苦み」や「酸味」「渋味」などは少ない方が良いですね。 

それに対して、所謂うまみ成分は、当然多い方が良いでしょう。

嗅覚から考えると、粗悪な原料を使えば、いやなにおいがあるものです。

例えば、鰹節や煮干しについては原料魚の鮮度が影響し、魚くささや酸化臭があると高品質だとは言えないでしょう。

昆布も同様で、昆布の素性によっては、海藻臭いような特殊な風味が気になるものです。

良い味や香りは歓迎だが、不要な要素は少ない方がいいということです。

 

 

 しかし、不要な要素を、それが「不要」であると、どのように認定するのでしょうか。

雑味と呼べそうなものでも、その風味が好きだという方がいた場合、どう考えれば良いのでしょうか。

こういった状況では、「所詮、味なんて、人それぞれの好みじゃないか」という話が出てくる場合があります。

 

 

 

 

実は、前述の良い食品づくりの会の官能検査時にも、少し評価が分かれたのです。

私ならタイコウさんの製品に良い評価をしますが、そうでない部会員もいたということです。

私は昆布屋ですから、言ってみれば「その道の人」ですが、だしそのものの味を見慣れている人など、実は世間では少数派なのかも知れません。

そんな方には、そもそもどんな評価軸で考えれば良いのか、悩んでしまうのかも知れません。

結果、「なんとなく」の評価がされる場合があるように思います。

 

 

 

 

 こんな一件から、今回のブログは「味の優劣」と「味の好み」について書いてみることにしました。

少し難しくデリケートなテーマですが。

 

結論から申しますと、完全な「優劣の線引き」は簡単では無いと思います。

しかし、「好み」と片付けてしまうことには、やはり賛同できません。

 キーになってくるのは、「歴史を伴った、その道の人たちの評価」でしょうか。

 

 

他の分野を考え合わせると理解しやすいかと思います。

私は食の業界に居ますので、主に動員するのは味覚と嗅覚ですが、他の感覚で判断する分野もありますね。

例えば、美術品を目で見たり、音楽を耳で聞いたり。

私は美術や音楽に関して知識も無ければ才能もありませんので、そういったものを正しく判断する能力を残念ながら持ち合わせていません。

音楽の演奏に良いものとそうでないものがあり、美術品に優れたものとそうでないものがあるのなら、食品についても同じでしょう。

ですので、食べ物の味を『好み』で片づけてしまうのは、やはり正しくないと思います。

食に関しては、健康にも関わってきますから、尚更です。

 

 

また、「多数決でもない」と考えています。

非常に失礼な言い方になって甚だ恐縮ですが、「味の分からない方」は相当数おられますので、品質の高くない物が好評を博すことは考えられないことではありません。

特に食べ慣れないものに関しては、そうなるリスクは高いように思います。

 

 

 

 

前回の投稿で、私共の昆布粉を「圧倒的にに高品質だ」等と書きましたが、その一方で、売れに売れているわけではないのです。

これはひょっとすると、そう感じておられない方も多いということかも知れません。

もちろん価格のことも関係するかとは思いますが。

 こう考えると、良い食品を作る生産者には「適正規模」があって、そもそも売れまくるような状態を望むべきでないとも思います。

 

 食品製造者の本分として、一人でも多くの方に喜んでいただけるものを作ることは大切でしょう。

しかし、基本的にこんぶ土居では、最大公約数を狙ったような製品は作りません。

ひとりよがりなようで甚だ恐縮ですが、根拠を伴って私が良いと思ったものをご提供します。

それが結果として、買って下さった方の喜びにつながることを望んでいます。

 

 

 

世間には、「あるべき原料とあるべき製法」から逸脱した、イミテーションと呼べそうな食品も存在し、意外にそんな製品が売れていたりもしますので、それについては特に注意が必要かと思います。

 しかし幸い、昆布の粉にはイミテーションは無いでしょう。

さほど高品質でない原料を使って作った昆布粉が、用途によっては問題なく使えたり、一部の場面では、そのようなものの方が適していることさえ起こり得ます。

 ですので、私共以外の昆布粉製品を「悪く」言うつもりはありませんし、それにはそれの存在意義があるわけです。

ただ、本当に良い原料をつかってコストもかけて作っていますから、その違いが理解されて欲しいとは思います。

こんぶ土居店頭で販売している昆布粉は、献上昆布たる白口浜天然真昆布100%です。

こんな明確な素性の高品質な原料でつくったものはないと自負しています。

 

今回の投稿内容は、一部に私の「愚痴」や「嘆き」が含まれているようで申し訳ありません。

 

 

 

味を判別することについても、昔の人は優秀だったのかも知れません。

古い時代から昆布に格付けが存在したことは、改めてすごいことだと思います。

昆布の品種もたくさんある中で、真昆布だけには地名を冠することなく「真」という文字をつけたり、同じ真昆布エリアでも「浜格差」と呼ばれる採取地の格付けをしたわけです。

そんな「良いものを判別する感覚」が現代人に失われているのかも知れません。

 食の業界にも、食品自体に関心があるのでなく、そこから得られるお金のことばかりを見ている人が多いような気もします。

 

 

幸いにも私共の仕事は、「良い食品」を正しく判別できるお客様に支えられています。

その方々に向けた仕事は今後も変わりませんし、ご期待を裏切らないよう良い製品づくりに努力したいと思います。 

また、良いものを理解していただき易いように、情報や体験の機会の提供も充実させていければと考えています。

(構想あり)