こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

ゼロウェイストと鰹節

 

環境問題が深刻化する中で、新たな取り組みをされる方々が増えているようです。

私共は昆布屋ですので、海に関わる仕事で、海洋マイクロプラスチックの話も最近よく耳にするようになりましたから関心事のひとつです。

一方、自社の製品を考えてみますと、たいていはプラスチックの袋の入っているわけです。

こういった状況で、なんとか少しでも「脱プラスチック」を進めていくべきだと考え、方法を模索しております。

 

 

タイトルにも書きました「ゼロウェイスト」という言葉。

直訳すれば「ムダなし」になるかと思いますが、できるだけ環境負荷をかけずに、包材などを省いていく取り組みに使われることも多い言葉です。

食品の販売形態で言えば「量り売り」が、それに近いかと思います。

 

 

そんな「量り売りの食料品店」が各地でちらほら現れてきていますので、私共も非常に参考になります。

中でも、「斗々屋」というお店のお取組みは、先進的で非常に面白いものがあります。

数年前に東京でゼロウェイストのお店を始められたのですが、今年、京都にスーパーマーケットに近い品ぞろえで新店舗を開店されました。

ヤフーニュースの記事を貼っておきます。

news.yahoo.co.jp

 

 

実はこの斗々屋さんでは、こんぶ土居製品もお取り扱い頂いています。

その際の納品方法も、非常に興味深いのです。

ゼロウェイストの精神は、販売時だけでなく仕入れ時にも及んでおり、「納品時に昆布製品をプラの袋に入れないで欲しい」と要望いただいています。

洗って繰り返し使えるシリコン製の容器をお預かりしており、それに入れて納品するのです。

また、配送時に使用する段ボールも、新品でないものをご指定になります。

筋金入り、ですね。

 

斗々屋さんのお取組みは、新しい時代に求められる販売形態として、とても参考になりますので、遠方でなければ訪問してみてはいかがでしょう。

 

 

このような量り売り、食品によって、適したものと難しいものがあります。

昆布は比較的取り組み易い方でしょうか。

空気に触れても簡単に劣化することもありませんし、大きな問題は起きにくいものです。

しかし難しいのが、ダシの世界で昆布の相棒である鰹節です。

量り売りということは、容器に入った食品を必要量だけ取り出して販売するわけですから、当然その際に容器内に空気中の酸素が入ります。

こういった状況は、酸化に弱い食品には厳しいのですが、鰹削り節はその代表格でしょう。

どんなに品質の良い鰹節であっても、削った後に酸素に触れてしまうのであれば、急速に品質は劣化していきます。

難しいものです。

 

そうなれば、ゼロウェイストと品質を両立させたければ、結局のところ自分で削るしかないのです。

鰹節は、削ることによって断面積が増え、酸化の悪影響が顕著になりますが、削る前の状態であれば簡単には劣化しませんので。

 

ただ、昔は日本人の日常であった、家庭での鰹節削り。

なかなか今は定着しません。

私共の店舗でも、節も削り器も販売しています。

一念発起して自分で削ることを始められる方も多いのですが、そのうちの相当数の方が途中で挫折してしまうのを見て、心苦しいところです。

 

しかしこれは、ある意味無理もないところです。

やはり一般のご家庭では少しハードルが高いでしょう。

理由のひとつとしては、道具のメンテナンスです。

そもそも、カンナの刃の出具合を適切に調整する必要がありますし、刃物ですから使っているうちに切れ味が鈍り、研ぎ直しが必要になります。

現代では、普通の包丁でも自分で研げない方が多いのに、カンナの研ぎ直しは、やはり大変だと感じる方が多いのでしょう。

 

ですので、なんとかハードルを下げて、可能な限り簡便な方法で自宅での鰹節を削っていただく方法が無いかと考えてきました。

そんな中で、ちょっとしたアイディアを考え付きました。

 

次回の投稿(下部のリンクです)では、その内容をご紹介したいと思います。

ご興味あれば、ご一読ください。

なんとか多くの方が、鰹節の自家削りの社会的意義と、その味覚的な素晴らしさに気づき、生活に取り入れて下さることを願っています。

 

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「大阪昆布ミュージアム」開設予定のお知らせ

来年のことになりますが、大阪の昆布文化をご理解いただける施設「大阪昆布ミュージアム」を始める予定です。

大阪は昆布の街ですから、そんな施設があっても良さそうですが、意外に無いようでしたので作ることにしました。

産経新聞の北村博子記者が、要点をまとめて記事に書いて下さいましたので、リンクを貼っておきます。

是非ご一読下さい。

www.sankei.com

鰹枯節の「四番カビ」は本当に必要なのか

 

前回の投稿で、昆布の熟成の年数の長さを、付加価値として謳うことの問題点について書きました。

 

 

だしの世界では昆布の相棒である鰹節にも、似た構造が存在しますので、本日は、そんな内容です。

 

 

鰹節の製造工程は、簡単に申し上げれば

①生の魚をさばいて

②お湯で煮て

③煙でいぶして乾燥させて

以上①~③で出来上がりです。

この段階では「荒節」と呼ばれる鰹節ですが、その後「かびつけ」の工程が加わると「枯節」と名前が変わります。

この工程で、カビの作用で更に水分を抜き、香りも良くなるので、枯節は高級品だと言えます。

 

作業としては、カビの水溶液を鰹節に噴霧し、増殖に適した「むろ」に入れるのですが、それによって鰹節の表面はビッシリとカビで覆われます(「自然カビ」と呼ばれるカビ水溶液の噴霧をしないものもあるにはあるようですが、非常にまれです)。

その後、数日かけて日干して一番カビを落とした後、再びむろに入れて二回目のかびつけに進むのです。

最初につけたかびを「一番カビ」、以後「二番カビ」「三番カビ」と呼ばれていきます。

 

市販されている枯節の中には、このかびつけ回数の多さを付加価値として謳う製品があるのです。

例えば、下記のサイトは、「本場の本物」と銘打った地域食品ブランドの表示基準ですが、こちらでは「四番カビ」を明記しています。

つまり、三番カビでは、こちらの言う「本場の本物」でないということになってしまいます。


「山川」とは、鹿児島県指宿市の鰹節産地のことですが、私共で「本格十倍出し」の製造原料として鰹節生産者さんに作っていただいているものは、正に上記の「山川の鰹節」です。

近海一本釣りの原料魚を指定し、こんぶ土居仕様に作っていただいています。

ただこの鰹節、「三番カビ」までしかつけていません。

つまり、上の「本場の本物」の基準に合致しないのです。

ですから、私共で使用しているものは「本場の本物でない」と認識されてしまうのでしょうか。

 

ただ、カビつけと、その後の日干しを十分にすれば、二番や三番のかびつけでも、鰹節の内部の水分は非常に少なくなるようです。

であるならば、その後の四番カビをつけることに、大きな意味があるのでしょうか。

むろの温度や湿度をコントロールすれば、何度でもカビを乗せることは可能でしょうけれども、回数を重要視しすぎることがあるならば、それは鰹節の品質を高めるためでなく、その行為自体が目的化してしまっているようにも思います。

 

そんなことよりも。

例えば、美味しい鰹節に原料魚の品質はとても大切な要素ですが、「一本釣り漁」と「巻き網漁」では、魚の品質が変わります。

また、魚には資源問題がありますから、本当に持続可能な鰹節の良い未来を考えるなら、できる限り一本釣りを選ぶべきでしょう。

しかし、前述の「本場の本物」では、そのあたりのことについては一切言及されていません。

 

今年の春には、人気のテレビ番組「プロフェッショナル仕事の流儀」で、鰹節職人さんが取り上げられたりしていました。

一般の方には素晴らしいもののように映るのかも知れませんが、私にはそこでも何か大切なことが見落とされているように感じました。

鰹節以外の食品でも、どうでも良いようなことに付加価値をつけられ、本当に大切なことが放置されている事例が多いように思います。

 

今後もこんぶ土居では、常に「本当に大切なことは何か」を考えて、営業を続けたいと思います。

鰹節については、過去に何回か投稿しています。

宜しければ、そちらも併せてご一読下さい。

 

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昆布の熟成効果のリミット

昆布を寝かせて熟成させることによって味が良くなるのは、今や多くの方が知るところとなりました。

私共のような昆布屋が見ている、その変化の過程を、一般の方が見る機会は無いと思いますが、本当に大きく品質が変わるのです。

不思議なものです。

私が初めて昆布の産地を訪問し、漁師さんのお手伝いを始めた平成16年。

浜で水揚げされ乾燥されたばかりの味を見たときには、本当に驚きました。

日々大阪で同じ昆布に触れているわけですが、味が全く違ったのです。

簡単に言えば、あまり味が無いように感じました。

これこそ熟成の効果であるわけです。

 

 

本日の投稿では、昆布の熟成について

①熟成と保管の違い

②熟成に必要な環境

③適切な期間

以上①~③に分けてご説明したいと思います。

 

 

『①熟成と保管の違い』

まず言葉の意味するところですが、「保管」は昆布の品質に問題が出ないように長く維持すること、としておきます。

それに対して「熟成」は、むしろ逆で、昆布の品質を良い方向に「変化」させることを意味しています。

つまり、この両者は、対照的な事柄であるわけです。

そうなれば、当然手段が変わってきます。

 

「保管」は、シンプルです。

外的な要因で昆布を変化させるものを取り除けば良いわけです。

具体的には、「温度」「湿度」「光線」などが代表的な要素でしょう。

つまり、低温で低湿度、光の入らない場所、更に言えば空気を遮断できれば尚良いでしょう。

こんな環境に置くことができれば、昆布の状態を変化させず長く維持させることができるはずです。

 

 

 

昔は、大阪のどこの昆布屋でも昆布の熟成効果を理解して対応してきたと思いますが、今やそんな状態でもなくなりました。

理由は「見た目」です。

昆布の熟成にはある程度の湿度が必要ですが、吸放湿する過程で、昆布の表面に少し白い粉が吹くのです。

この状態を消費者や販売店が嫌う構図は、今や普通のこととなりました。

それを避けるためには、前述の低温低湿度環境での「保管」をすれば良いわけです。

そうすることによって、外見的にも変化させずに保つことができます。

 

 

『②熟成に必要な環境』

 

前述の保管に適した「低温低湿度」、しかしこれは「熟成」に良い環境ではないわけです。

熟成によって昆布の味覚的な品質を上げようと思えば、特に重要なのは適切な「湿度」です。

次に「温度」でしょうか。

光線は熟成にも全く不要です。

これらの要素は、人為的に調整可能なはずです。

除湿器や加湿器を使って湿度をコントロールし、エアコンで温度を調整すれば良いわけです。

私共でも、過去にそんなことにトライした時期もありました。

 

しかし、そのような方法は「何か違う」と感じます。

それが何か明確には申し上げられませんが、悪くはないものの「望んだものズバリ」でもないように感じました。

これは、醸造関係の製品と似た構造なのではないかと思っています。

 

発酵が関係する食品は菌が活動するわけですから、その菌が最も好む温度湿度に調節することは可能です。

しかし、昔ながらの伝統製法で発酵食品をつくるメーカーは、たいてい四季の移ろいを経たものづくりをしています。

逆に大手メーカーは、短期間で製造することで得られるコストダウンのため、加温して、所謂「促醸」と呼ばれる方法を取ることが多いものです。

この両者を比較すれば、「促醸」は、菌の活動に良い環境を整えることによって早く製造できたわけですから、良いものができそうなものです。

しかし実際は、伝統的な製法の方が良い結果が出たりするのが面白いところです。

 

結論としては、昆布の熟成に、ある程度の湿度と温度が関係していることは間違いありませんが、その理想値を明確に示すことはできません。

経験則から申し上げれば、そんな理想を追求するより、昔ながらの原始的な方法が良いように感じています。

環境負荷の面から考えても、無駄に電気を使ってコントロールするよりも、自然な形で調節できる方が良いのは言うまでもありません。

 

例えば必要な湿度は梅雨時の気候が与えてくれます。

それが過剰になり過ぎないように倉庫内の空気の循環を抑えたり、高床状態にして過剰な吸湿を避けたり、場合によってムシロで覆って調節したり。

私共では、その時その時で気候と昆布の状態を観察しつつ、原始的な方法による調整を基本にしてきました。

今後も、それを続けたいと思います。

 

 

『③適切な期間(熟成効果のリミット)

まず、最初にイメージして頂きたいのは「押し花」です。

子供の頃に、四つ葉のクローバーなどを見つけて、本に挟んで押し花を作った経験のある方も多いかと思います。

不思議なもので、押し花にすると、長い間きれいな緑色の状態を維持できるようです。

それでも長くても一年ぐらいが限度のようで、徐々に退色していき、枯れ葉のような色合いになってきます。

昆布も同じです。

昆布も植物であり葉体ですから、漁獲直後の状態から、押し花と同じ経過を辿り、枯れ葉のような状態へと進んでいくことになります。

 

かなり古い昆布の味がどうなるか、実際に味見をして経験できれば良いのですが、一般の方はそんな機会はないでしょう。

しかし実際に経験せずとも、異常な長期間寝かせて枯れ葉状態になった昆布の味が、なんとなく想像つきませんでしょうか。

 

時の経過によってつくられる加工食品は多いですが、ピークがあるでしょう。

長ければ長いほど良い食品など、ほとんど無いように思います。

例えば、伝統製法の梅干しは塩分も高くPhも低いですから、決して腐ることのない食品です(減塩梅干しを除く)。

ですので、例えば100年前の梅干しなどが実際に現存し、販売されている事例などもあるようです。

しかし、それが美味しいかどうかは全くの別問題です。

簡単に言えば、梅干しでも昆布でも、あまりに長期間寝かせすぎると、その素材が持っている本来の味が消えていってしまうのです。

 

昆布に関してその適切なラインがどの程度かは、前述のように熟成環境にもよります。

こんぶ土居に於いては一年目には大きな品質変化が生まれます。

二年目の熟成でも、上積みがあるように思います。

しかし、二年寝かせた昆布と三年寝かせた昆布とを比較した際、明確に三年が良いと言えるかとなれば、よくわかりません。

たいして変わっていないと思います。

更にその先は、言わずもがなです。

 

現在私共で販売している製品の「天然真昆布一本撰」は平成27年産の昆布です。

年数で言えば「六年熟成」に該当するのでしょうか。

しかし、私共ではそこに付加価値をつけての販売は一切しておりません。

 

食の世界に限らず、「意味のない付加価値」がつけられた製品が横行しています。

正しい情報をつかみ、それに振り回されないようにしたいと思います。

昆布の熟成について多くの方が知って下さるのは嬉しいのですが、過度に評価されて正しい認識からずれることが無いように望みます。

 

(了)

 

(過去に同様のテーマで書いた記事もあります。本日の内容と重複する部分が多いですが、ご興味あればご一読下さい。)

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昆布の機械乾燥について

「天日乾燥」。

この言葉には、強い魅力がありますね。

乾物には乾燥の工程があるわけですが、昔の時代は機械乾燥など無いので、必然的に天日乾燥だったでしょう。

時代が進み、徐々に機械化されていったのは、昆布に関しても全く同じです。

本日は、昆布の乾燥について、天日と機械がどのように違うのか書きたいと思います。

 

 

切り口は主に4点です。

①乾燥状態の良し悪し、②昆布漁に及ぼす影響、③浜の現実、④環境面、

以上①~④に分けてご説明致します。

(以下のご説明は、道南の真昆布産地である南茅部地区での仕事をベースにしています。他地域では一部に異なる固有の要素があります。)

 

まず「①乾燥状態の良し悪し」

品質のために天日乾燥が良いと考えられる場合、機械乾燥と違う点は、やはり温度だと思います。

食品によっては高温で乾燥させた方が良いものもあるのかも知れませんが、昆布については、やはり天日乾燥のような低温乾燥が大切です。

機械で乾燥する場合でも、天日と同じような温度帯で乾燥すれば大きな遜色のない品質にはなりますが、高温で一気に乾燥させると全く違うものに仕上がります。

ただ、漁業現場での仕事の効率化のために、高温で乾燥されることが実際にあるので、改善されるべきポイントです。

  

私は、昆布を見ただけで、その昆布が高温で乾燥されたものか低温で乾燥されたものか見分けることができますが(自慢のようになって恐縮ですが、使用した乾燥機のメーカーも判別できます)、日々の昆布の選別作業で高温乾燥の昆布に遭遇すると、とても残念な気持ちになります。

当然このような昆布は、一級品として販売することなく、価格を下げて販売することになってしまいます。

 

根深い問題として存在するのは、高温で乾燥させた方が昆布が黒く仕上がり、それが、見た目として一般消費者から歓迎される傾向にあることです。

過去の投稿でも書きましたが、なんとなく黒い昆布は高品質そうに見えませんでしょうか。

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今は昆布を専門店でお買いになる方は少なく、たいていスーパーや一般的な食料品店が利用されるでしょう。

その場合、販売に従事される方は昆布の専門家ではありませんので、深い理解がなく、黒い昆布の方が売れやすく歓迎する傾向があるようです。

低温で乾燥され、かつ良い生育状態の昆布は、真っ黒でなく「飴色」がかっているものです。

 まとめますと、機械乾燥でも天日と大きな遜色のない品質の昆布をつくることはできますが、それは適切な温度での良い機械乾燥であることが条件になり、現在では必ずしもそれが保証されていない、ということでしょうか。

 

 

次に「②昆布漁に及ぼす影響」

昆布漁は意外にデリケートなのです。

まず、天候が悪いと出漁できません。

例えば海が時化(しけ)ると操業の安全性に問題が出ますから、当然出漁できません。

特に天然昆布に関しては、晴天の日であっても、直前に雨が降っていれば海が濁って船上から海底の昆布が見えませんので、昆布を採ることはできません。

ある年は、大雨があった影響で川が増水し、濁流が流れ込んで海が濁り、長期間に亘って全く天然昆布漁ができませんでした。

また、天日乾燥を前提にするなら、雨なら出漁できませんし、曇りでも難しいです。

良い品質の肉厚の天然真昆布なら、晴天でも天日乾燥に二日かかり、雨にあたってしまうと品質に問題が出るからです。

 

このように天候に左右される昆布漁ですが、適切なタイミングで漁をすることは、とても大切です。

他の陸上の農作物と同じように、昆布の成長度合いにも理想的なピークがあります。

それ以前ですと、十分に成熟していない状態ですし、ピークを越えると胞子を出す段階に近づきますので、品質に問題が出ます。

天然昆布漁の解禁日は、こんな事情で土用の頃に設定されているわけですが、前述のような天候による悪条件時には、このスケジュールがずれ込むことになります。

そうなると昆布の品質に悪影響がありますので、適切なタイミングで水揚げしてしまうことは大切なのです。

機械乾燥を導入しても時化で漁に出られないのは同じですが、曇りの日や、少々の雨なら水揚げできることが機械乾燥のメリットのひとつでしょう。

このように、間接的な要因によって、機械乾燥が品質向上につながる可能性も想定できるわけです。

 

 

「③浜の現実」

私共で主たる原材料として使う真昆布の産地、北海道の南茅部地区は、海の背後にすぐ山が迫り、平地が広くはありません。

天日乾燥をしようとするなら「干場(かんば)」と呼ばれる場所を整備する必要があります。

玉砂利や砕石を敷き詰め、昆布の乾燥に良い環境を整えるのです。

このためには、十分なスペースが必要なわけですが、前述のように平地が広くない地域で、機械乾燥のない古い時代には、漁師さんも大変ご苦労されたようです。

例えば、「家の屋根の上にまで昆布を干した」という昔話を伺ったりすることもあります。

また、天日で昆布を干すのは大変な重労働であり、高齢化が進んで労働力の確保が大変な現在では、簡単でない部分もあります。

 

 

④環境面から

 天日乾燥は、太陽と風が昆布を乾かしてくれます。

完全な自然エネルギーですね。

それに対して、機械乾燥は燃料を燃やして乾燥室の温度を上げますから、環境面から考えると天日乾燥が推進されるべきだと思います。

ただ、生産現場の諸々の事情によって、それがすぐに可能でない場合もあり、なかなか難しいところです。

 

実は、機械乾燥と天日乾燥のハイブリッドのような方法もあります。

実際に多くの漁師さんが取り入れていますが、「水切り」の工程を入れることです。

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この写真のように昆布を吊り下げて、漁獲直後の水分を切り、いくらか乾燥させます。

その後に乾燥室に入れて完全に乾燥させる流れです。

この方法では、品質面でも天日乾燥に近くなりますし、何より燃料の節約にもなります。

ただ、昆布をたくさん吊るした竿は非常に重く、効率よく乾燥室に入れるためにはちょっとした設備やスペースも必要ですから、なかなか対応が難しい漁家もあるようです。

完全に天日乾燥で仕上げるのは難しいにしても、この「水切り」のような方法で、可能な範囲で積極的に自然エネルギーによる乾燥に取り組むべきだと思います。

 

 

 まとめますと、天日乾燥は、乾燥の部分だけで言えば、非常に良い品質のものができ、環境面で最も良い方法だとは思います。

ただ同時に解決すべき課題もあり、機械乾燥はそれを補うもので、様々なメリットもありますので一概に否定はできません。

ただ、「天日で問題ないのなら天日乾燥を積極的に選択する」ということができれば良いとは思います。

 

今後の日本の労働環境を考えれば、できるだけ作業効率の良い方法が求められますし、同時に品質を良い状態で保つこと、環境負荷を少しでも減らすこと、様々な問題を同時に解決する手段が求められます。

当然、それは簡単では無いのですが、目指すべき方向性だけは決まっていますので、その実現に向けて、大阪からも昆布産地に引き続き働きかけたいと考えています。

故・吉村捨良氏の功績に学ぶ

 

以前から度々投稿しております、天然真昆布大不漁の問題。

私たちは、何とかしてそれを解決していかなければいけない訳です。

簡単に結果が出ない難問に、根気強く挑んでいく必要があります。

その最前線に立つのは、やはり昆布漁師さん達でしょう。

本日の投稿は、より良い昆布漁業のために尽力し、素晴らしい功績を挙げた先人のお話です。

 

 

私は、平成16年から毎年、最高級の真昆布産地である北海道の旧南茅部町「川汲浜」を訪れ、漁師さんのお手伝いなどをしてきました。

その最初の年、右も左も分からない私を受け入れてくれたのが、タイトルの「吉村さん」宅です。

 

 

タイトルに書きました吉村捨良(故人)さんは、当時既に80歳の高齢でしたから、お仕事はご子息の良一さんが中心となっておられました。

平成15年に「南かやべ漁協」として周辺浜と合併されるまでは、「川汲漁協」として独立した組織が存在し、良一さんは川汲漁協の最後の組合長を務めた方です。

三代目の時代からのご縁もあって、「浜の仕事を手伝ってみたい」との申し出を、吉村良一さんが快く受け入れてくれた次第です。

 

 

川汲での天然真昆布漁は、通常三人態勢で舟に乗り込みます。

昆布を採る漁師さんと、助手二名です。

助手の内訳は、海流や風で動きがちな舟を漁師さんが仕事しやすい位置に保つ「トメシ」という役割と、採取された昆布を船上の定位置に揃えて積み上げる「中乗り」という役割です。

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良一さんは、奥様とお嬢さんとの三人態勢で漁をしておられましたから、私はお父様の捨良さんの舟で「中乗り」としてお手伝いさせていただくことになりました。

 

 

下の写真は、平成16年当時の吉村捨良さんです。80歳のご高齢でも、とても力強い仕事ぶりでした。

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実は、この吉村捨良さん、ただの漁師ではないのです。

昆布漁業の「伝説的人物」として扱われるべき人だと思います。

最も革命的な功績は、日本で初めて昆布養殖を実用化させたことです。

 

 

まず、天然真昆布漁は夏場の限られた時期しかありません。

水揚げ後すぐ乾燥させ、その後の時期は、製品として流通させるための陸上での仕事が続きます。

そんなお仕事が一段落した頃、昭和40年代に昆布養殖が実用化されるまでは、多くの漁師さんは出稼ぎに出るのが普通であったのです。

そもそも昔から天然真昆布の漁獲量は年による変動が大きく、それだけでは漁家の生計が成り立たなかったのです。

出稼ぎ期間中、ご家族と離れて遠方で暮らすことは、決して好ましいことではないでしょう。

実際に吉村さん宅でも、良一さん曰く「おやじは漁期と正月以外、家にいなかった」とのことです。

そんな昆布漁家の暮らしを、出稼ぎから解放したのが「昆布養殖の実用化」であったわけです。

実は吉村さんの成功以前にも、数限りない人達が昆布養殖に挑んでいます。しかし、長く実現しない困難な事業でありました。

 

 

 

そんな難しい問題に挑み、日本で初めて突破口を開いた吉村さん。

  私が初めて昆布産地を訪問し、同じ舟に乗って共に仕事をさせていただいたのが、こんな方であったのは望外の幸運であったと、今になって改めて思います。

実は、私が初めて浜へ出向いた平成16年、滞在は一週間ほどでしたが、その期間中ずっと吉村さん宅に泊めていただいていたのです。

食事も全てご用意していただき、ご家族の皆さんと一緒に頂いています。

もうホームステイのような状態でしょうか。

そんな日々ですので、一日の仕事が終わって夕食も済めば、捨良さんから色々なお話を伺うことができました。

 

 

捨良さんは、昆布漁師というより、エンジニアのような方でした。

昆布養殖施設の設計以外にも、天日乾燥に代わる良い機械乾燥についての持論をたくさん伺いました。

ただ昆布が乾けば良いというものでなく、捨良さんの目は良い品質の昆布に仕上げることに常に向いていたのが印象的です。

そのあたりのことは、南茅部町史にも記されていますので、下記リンクからご一読ください。

南茅部町史・第六編『漁業』

現在でも使われている、養殖昆布の水揚げ後に使う昆布洗浄機も、原型は捨良さんが考案されたものです。

 

下に、北海道新聞が捨良さんを取材した記事を載せておきます。

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この新聞記事にも書かれていますが、昆布養殖の実用化へ吉村さんとタッグを組んだ、水産庁北海道区水産研究所の所長を務められた長谷川由雄氏。

私は長谷川さんにお会いしたことはありませんが、こちらも負けず劣らず立派な方です。

 

2002年の北海道新聞の取材に対しては「養殖技術で打ち出の小槌のようにコンブが収穫できるように思えるが、天然物が生育できない環境では養殖も難しい」とコメントしておられます(本投稿末尾の新聞記事をご参照下さい)。

 

現在の状況を見透かして警告したような、なんとも感服の先見の明。

この言葉が、養殖昆布の産みの親から出たものであることも特筆すべきところでしょう。

過去には、昆布の浜に見事な成果を残す偉大な方が居たんですね。

 

 

時代時代で私たちが直面する問題は変わります。

それでも、各世代でそれぞれに解決すべき課題が存在し、それに立ち向かって突破口を開いた先人がいたわけです。

吉村さんの功績に学び、現在の危機的状況に立ち向かい、明日の昆布漁業をつくる若い意欲のある漁師さんがきっと出てくることでしょう。

 

こんぶ土居では、微力ながら次世代の漁業者の育成にも関わってきました。

そんなお話はまた改めて書かせていただければと思います。

(了)f:id:konbudoi4th:20210724145947j:plain

 

「養殖昆布は採れている」では、だめな理由

 

前回の投稿で、私共でずっと使用してきた川汲浜の天然真昆布が、不作によって2021年の漁が無いことを書きました。


昆布屋としての営業に、大きな影を落とす出来事です。

誤解があってはいけませんので改めて書いておきますと、北海道の他の地域では、天然昆布が引き続き採れている場所もあります。

また、前述の川汲でも養殖真昆布の生産は比較的安定しています。

この構図をどう見るかがとても大事なポイントになるかと思いますので、今日の投稿は、それについてのお話です。

 

 

お人によっては、「天然真昆布にこだわらなくても、養殖の真昆布でもいいじゃないか」とお考えになるかも知れません。

狭い見方をすればその通りですが、もう少し深い理解がされることを期待します。

 

 

品質面で申し上げれば、天然真昆布と養殖真昆布の味が違うのは言うまでもありません。

しかし、むしろ本当に大切なことは、そんな話ではないのです。

環境が大きく変わり、北海道だけでなく全国的に、更には世界的に、海藻の状態がおかしくなっていることこそ、注目すべきポイントでしょう。

海藻が死滅して岩盤が露出し、そこにウニばかりが目立つ事例は海外でも非常に多くなっています。

 

 

本来の日本の豊かな沿岸環境は、海藻が生えているものです。

北海道の昆布産地でも、海中に昆布ばかりが生えているわけでは当然ありませんで、多種多様の海藻が生息しています。

これらの多様な海藻の群落は「海中林」と呼ばれることもあり、陸上に多種多様の植物が生息しているのと同じ形です。

つまり、海藻が消滅していくということは、陸上の森の木がどんどん枯れていくのと同じようなことだと言えるかと思います。

 

 

想像してみて下さい。

原因が分からないまま、日本の山林からどんどん木々が枯れて消滅することを。

誰もがそれを、とても恐ろしいことだと感じるはずですが、同じようなことが実際に海中で起きているのです。

 

山の木々が人間の住む環境に大きな役割を果たしているのと、海中林が果たしている役割は同じでしょう。

例えば、陸上の植物が光合成によって炭素を固定し、同時に酸素を吐き出していることは、誰もが知るところです。

海藻も光合成をしていますから、海水の組成やPHにも大きな影響を及ぼしています。

それが消滅していくことが沿岸環境にどれほど大きなダメージをもたらすか、想像に難くないでしょう。

 

 

養殖昆布は、言わずもがな人間が栽培したものです。

しかも、岩盤に根を下ろす天然昆布と違い、沖合に設置したロープに着生する形で生育するので、植物としては同じであっても生え方が違うのです。

他の海藻が生えず岩盤が丸裸になって、養殖昆布栽培ばかりが盛んな海は、山で言えば、人間が植林した針葉樹ばかりが生えて他の樹木が消滅しているようなものです。

そうなれば大変なことですし、その先には、針葉樹までもがだめになる図が想像できませんでしょうか。

 

 

私共は昆布屋ですから、当初は原料調達の問題として天然真昆布の不作を捉えていました。

又は、過去から受け継がれてきた伝統ある昆布文化の危機として見てきたところがあります。

しかしこの問題は、もはやそんなレベルを超えているのではないかと考えています。

 

 

天然真昆布の大凶作は、「警鐘」だと捉えるべきでしょう。

おいしい昆布がどうとか、食文化がどうとか、それはもちろん大切なのですが、背後には、もっともっと重大な危機が潜んでいるように思えてなりません。

しかし、前述のように養殖昆布の生産は安定していることもあって、天然真昆布の危機的状況の報道を、ほとんど見かけません。

それ故に、多くの方がこの問題をご存知ないままに見過ごされ、更に悪化していくことを危惧しています。

 

 

常態化した天然真昆布の不作に見舞われ、私はそれを復活させたいと考えて微力ながら活動してきましたが、もう自分の中でのテーマは変わっています。

すべきことは「藻場の再生」です。

その結果としての「天然真昆布の復活」だとの認識になっています。

 

 

今日も、スーパー等の食料品店に行けば、昆布全体としては品不足になっているわけでもありません。

それを見ると、大きな問題ないように感じてしまいがちですが、「養殖昆布があるんだから、それでいいじゃないか」との認識に潜む問題が、ご理解いただけましたでしょうか。

 

 

繰り返しになりますが、天然真昆布の連年の大不作を、更に大きな問題の『警鐘』だと認識して下さる方が一人でも多くなることを願っています。

 

実は日本でも、過去に藻場の再生の成功事例があります。

宜しければ、下記の過去投稿もご参照下さい。

konbudoi4th.hatenablog.com