さて、以前から何度も書いております、枯渇する天然真昆布の森。
私はずっと、これを何とか復活させたいと願い、微力ながら取り組んでいるわけです。
本年2025年も、昆布漁の最盛期の7月に道南の真昆布産地を訪問しました。
今年は、より詳細に自分の目で海の状況を確認したく、海に潜って現状を確認してきました。
その際の動画を、まずはご覧ください。
撮影地は、白口浜真昆布の産地、旧南茅部の臼尻浜です。
(2025年7月29日撮影)
このように、私が潜ったこのエリアでは正に「磯焼け」そのものであって、全く海藻が生えていない状態です。
この場所も、10年ちょっと前までは天然真昆布の森が広がっていたのです。
なんとも悲しいものです。
理由は様々に想定はされますが、明確には申し上げられません。
ここは最もひどい場所であって、同じ地区でもいくらか天然昆布が生えているところも残っていますが、残念ながら状況は年々悪化しているようにも見えます。
こうなると、天然真昆布の森の再生は、益々難しくなります。
昆布は二年生の海藻ですが、二年かけて育った昆布が秋頃に胞子を海中に放出し、そこから新しい世代が生まれてくるわけです。
しかし、親になる天然昆布が海中に無ければ、胞子が放出されることが無いのは当たり前のこと。
動画で見ていただいた場所で言えば、正にそんな現状でしょう。
こういった意味でも、以前から漁協が主導し「母藻投入」が行われてきました。
天然昆布で胞子を出せる状態になったものを採取し、別の場所に沈める方法です。
これは通常「岩盤清掃」と併用して行われ、昆布が着生しやすい海底環境を整え、その場所に胞子を出せる状態になった昆布「母藻」を投入するわけです。
しかし現在では、天然昆布がどんどん少なくなっているわけで、投入する母藻の確保にも支障が出ます。
養殖昆布を母藻に使うことも可能ですが、そのために漁師さんが昆布を栽培する必要がありますから、手間も経費もかかります。
こういった現状を踏まえて私が夢想しているのが、本日の投稿のタイトルの通り「ガニアシを母藻に」です。
段落として
【ガニアシとは。その現状】
【ガニアシ、海中投入の意義】
【確認すべき事】
【法的な障壁】
【藻場再生、特区構想】
【まとめ】
と順に書きたいと思います。
【ガニアシとは。その現状】
まず、画像をご覧ください。
これは栽培中の養殖昆布の画像ですが、養成綱と呼ばれるロープに着生させて昆布を育てます。
そのロープに根のようなものが絡みつき、昆布は育っていきます。
画像に見えるグシャグシャした部分がガニアシ、仮根です。
天然昆布の場合は、このガニアシが養成綱でなく海底の岩盤に着生しています。
水揚げの風景をご覧いただきますと。
こんな感じで、たくさんの昆布が着生した養成綱を、まとめてクレーンで吊り上げるのです。
この段階では、ガニアシはついたままです。
これを陸揚げ後、ガニアシと昆布の葉体に切り分けます。
画像の手前に見えるのが、養成綱にガッチリ着生したガニアシです。
後方には、製品となる昆布の葉体が見えるかと思います。
ガニアシは、ロープから外された後、産業廃棄物として回収されていきます。
食べられないことも無いのですが、こんな形状ですから内部に夾雑物が多く掃除が大変で、食用として活用することは難しい現状です。
【ガニアシ、海中投入の意義】
結論から申しますと、現在は産業廃棄物として処理されている「ガニアシ」を海中に戻せないかと、私は考えているわけです。
その意義としては、主に3つ想定しています。
まず、
『意義①』海への栄養補給
漁師さん方にお伺いすると、昔と比べて海は透明度を増しているとのこと。
水がクリアになったということは、水質が良くなったと見られがちですが、これは栄養分が少ないという見方もできます。
『水清ければ魚棲まず』と言う言葉がありますが、正にそういった事が今起きているように感じ、栄養分が足りないからこそ海藻類が育たないのだと思います。
近年は、北海道の昆布以外でも、海苔養殖にも問題が多発していますが、その理由は正に「栄養不足」によるものです。
ガニアシは昆布の一部ですから、海中の栄養素を吸収することで生成されたもので、その一部を海に戻すイメージでしょうか。
また、ガニアシは非常に複雑な形状をしていますから、他の海洋生物も棲みついているのです。
小さなエビであったり、ホタテ貝やカラス貝の赤ちゃん等も多く付着しています。
こういった付着物も一緒に海に入ることになれば、海の栄養補給として大いに期待できます。
『意義②』ブルーカーボン
近年では、天然であれ養殖であれ、海藻が海に存在することの意義が大きく見直されてきています。
そのひとつが、「ブルーカーボン」です。
海藻も光合成をしていますから、その成長過程で海中の二酸化炭素を吸収しているわけです。
つまり、海藻が繁茂すること自体が温室効果ガスの削減を意味するわけで、本当に素晴らしいことです。
しかし、炭酸ガスを吸収して昆布が成長したとしても、それが後に分解されて空気中に放出されれば意味がありません。
二酸化炭素に分解されることなく、別の何かの形で炭素化合物が存在している必要があります。
海の中では、例えば昆布をウニが食べたとすれば、ウニ殻の主成分は炭酸カルシウムですから正に炭素を含んでいるわけで、こういった形で海中に保持されることもありますし、難分解性の炭水化物として海中に滞留する分もあるようです。
ガニアシがこういった形で海の成分として固定される道があるなら、温暖化対策としても良いように思われませんでしょうか。
『意義③』天然昆布の母藻にならないものか
そして、この「意義③」こそが、天然真昆布再生のため、本日の投稿の核になる話です。
次の段で詳しくご説明します。
【確認すべき事】
先に書きましたが、新しい世代の親となる天然昆布が枯渇しているわけですから、それは胞子を放出する母藻が無いということであって、他の諸条件が好転しても天然昆布が再生するのか心配です。
そこで私は養殖昆布の水揚げ時に出るガニアシを、母藻として活用できないかと夢想しているわけですが、そのためには2つの事を確認する必要があります。
まず一つ目は、天然昆布でなく一年養殖昆布(促成昆布)からも胞子が出るのかどうかです。
現在は、天然昆布の枯渇だけでなく、二年養殖真昆布の生産も激減していますから、安定して栽培されている促成昆布を活用する必要があります。
こちらについては、恐らく「促成昆布からも胞子が出る」との認識で間違いないかと思います。
そしてもうひとつの条件は「促成昆布の葉体でなく、ガニアシからも胞子が出るのかどうか」です。
これについては、多くの漁師さんに見解を伺いましたが、明確な答えは得られませんでした。
ですので現在、ある漁師さんに協力して頂いて、実験中です。
今年に水揚げした促成昆布のガニアシを切り取って、海水に浸かった状態で保管して頂いているのです。
腐ったりせず秋に胞子が出れば嬉しいのですが、それを観察していただいています。
どうなるかは分かりませんが、廃棄物として大量に出ている物の活用ですから、うまくいけば夢が広がります。
【法的な障壁】
前段で書いた実験が仮にうまくいったとしても、現在の法制度ではガニアシを海中に戻すことはできません。
現在の法制度では、一旦水揚げしたものを海に戻すことは一切認められず、「海洋投棄」だと見なされてしまうわけです。
しかしこれは、栄養塩類濃度が高くなりすぎる『海の富栄養化』が進んだ時代に、それを防ぐ意味合いで進められてきたことです。
しかし現在の天然真昆布が枯渇する海域で起きている現象は真逆であって、「貧栄養」そのものです。
ただ、海の栄養補給が大切な現状であっても、なんでもかんでも海中投入を認めてしまえば問題が出ますから、法制度を変えるということは簡単な話ではありません。
【藻場再生、特区構想】
前段で書きました通り、ガニアシを海に入れることに意義があったとしても、法制度によって阻まれるわけです。
しかし、これだけ温暖化対策が重要視される今、「磯焼け」の解決は国家レベルでの課題ですし、藻場再生の目的に限定し、条件も設定して、「特区」として実験的に取り組めないものかと夢想しています。
これは、行政が関わる話ですから道筋を模索することになります。
食文化と環境を守るため、なんとか「天然真昆布の森再生計画、特区構想」を実現できないかと考えています。
【まとめ】
先に書きました通り、現在ある漁師さんに協力して頂いてガニアシを母藻として活用できるののかどうか実験中です。
天然真昆布は常態化した大不作が続いているわけですが、なんでもかんでも温暖化のせいにしてはいけません。
例えば、本日の投稿の前半で掲載した臼尻地区の海底の動画。
真昆布産地でも、海底に昆布だけが生えているわけではないのです。
他の様々な海藻が繁茂するのが普通です。
昆布は北の海に生える海藻ですから、温暖化による高水温でダメージを受けるのは理解できます。
しかし、本州でも生えるような他の海藻までもが無くなる「磯焼け」を考えるなら、「温暖化による高水温」だけを原因と見なすのは正しくないでしょう。
寒流の流入を妨げてきたと言われる黒潮の大蛇行も収束の兆しがあるようですし、今後水温が下がる可能性も無きにしも非ずです。
そういった未来に向けて、他の様々な要素について人間が可能な限りの準備をし、昆布の後押しができるようにしたいと思います。
現在進行中の実験については、その結果を、改めてこのブログで書きたいと思っています。
(了)