こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

昆布の機械乾燥について

「天日乾燥」。

この言葉には、強い魅力がありますね。

乾物には乾燥の工程があるわけですが、昔の時代は機械乾燥など無いので、必然的に天日乾燥だったでしょう。

時代が進み、徐々に機械化されていったのは、昆布に関しても全く同じです。

本日は、昆布の乾燥について、天日と機械がどのように違うのか書きたいと思います。

 

 

切り口は主に4点です。

①乾燥状態の良し悪し、②昆布漁に及ぼす影響、③浜の現実、④環境面、

以上①~④に分けてご説明致します。

(以下のご説明は、道南の真昆布産地である南茅部地区での仕事をベースにしています。他地域では一部に異なる固有の要素があります。)

 

まず「①乾燥状態の良し悪し」

品質のために天日乾燥が良いと考えられる場合、機械乾燥と違う点は、やはり温度だと思います。

食品によっては高温で乾燥させた方が良いものもあるのかも知れませんが、昆布については、やはり天日乾燥のような低温乾燥が大切です。

機械で乾燥する場合でも、天日と同じような温度帯で乾燥すれば大きな遜色のない品質にはなりますが、高温で一気に乾燥させると全く違うものに仕上がります。

ただ、漁業現場での仕事の効率化のために、高温で乾燥されることが実際にあるので、改善されるべきポイントです。

  

私は、昆布を見ただけで、その昆布が高温で乾燥されたものか低温で乾燥されたものか見分けることができますが(自慢のようになって恐縮ですが、使用した乾燥機のメーカーも判別できます)、日々の昆布の選別作業で高温乾燥の昆布に遭遇すると、とても残念な気持ちになります。

当然このような昆布は、一級品として販売することなく、価格を下げて販売することになってしまいます。

 

根深い問題として存在するのは、高温で乾燥させた方が昆布が黒く仕上がり、それが、見た目として一般消費者から歓迎される傾向にあることです。

過去の投稿でも書きましたが、なんとなく黒い昆布は高品質そうに見えませんでしょうか。

konbudoi4th.hatenablog.com

今は昆布を専門店でお買いになる方は少なく、たいていスーパーや一般的な食料品店が利用されるでしょう。

その場合、販売に従事される方は昆布の専門家ではありませんので、深い理解がなく、黒い昆布の方が売れやすく歓迎する傾向があるようです。

低温で乾燥され、かつ良い生育状態の昆布は、真っ黒でなく「飴色」がかっているものです。

 まとめますと、機械乾燥でも天日と大きな遜色のない品質の昆布をつくることはできますが、それは適切な温度での良い機械乾燥であることが条件になり、現在では必ずしもそれが保証されていない、ということでしょうか。

 

 

次に「②昆布漁に及ぼす影響」

昆布漁は意外にデリケートなのです。

まず、天候が悪いと出漁できません。

例えば海が時化(しけ)ると操業の安全性に問題が出ますから、当然出漁できません。

特に天然昆布に関しては、晴天の日であっても、直前に雨が降っていれば海が濁って船上から海底の昆布が見えませんので、昆布を採ることはできません。

ある年は、大雨があった影響で川が増水し、濁流が流れ込んで海が濁り、長期間に亘って全く天然昆布漁ができませんでした。

また、天日乾燥を前提にするなら、雨なら出漁できませんし、曇りでも難しいです。

良い品質の肉厚の天然真昆布なら、晴天でも天日乾燥に二日かかり、雨にあたってしまうと品質に問題が出るからです。

 

このように天候に左右される昆布漁ですが、適切なタイミングで漁をすることは、とても大切です。

他の陸上の農作物と同じように、昆布の成長度合いにも理想的なピークがあります。

それ以前ですと、十分に成熟していない状態ですし、ピークを越えると胞子を出す段階に近づきますので、品質に問題が出ます。

天然昆布漁の解禁日は、こんな事情で土用の頃に設定されているわけですが、前述のような天候による悪条件時には、このスケジュールがずれ込むことになります。

そうなると昆布の品質に悪影響がありますので、適切なタイミングで水揚げしてしまうことは大切なのです。

機械乾燥を導入しても時化で漁に出られないのは同じですが、曇りの日や、少々の雨なら水揚げできることが機械乾燥のメリットのひとつでしょう。

このように、間接的な要因によって、機械乾燥が品質向上につながる可能性も想定できるわけです。

 

 

「③浜の現実」

私共で主たる原材料として使う真昆布の産地、北海道の南茅部地区は、海の背後にすぐ山が迫り、平地が広くはありません。

天日乾燥をしようとするなら「干場(かんば)」と呼ばれる場所を整備する必要があります。

玉砂利や砕石を敷き詰め、昆布の乾燥に良い環境を整えるのです。

このためには、十分なスペースが必要なわけですが、前述のように平地が広くない地域で、機械乾燥のない古い時代には、漁師さんも大変ご苦労されたようです。

例えば、「家の屋根の上にまで昆布を干した」という昔話を伺ったりすることもあります。

また、天日で昆布を干すのは大変な重労働であり、高齢化が進んで労働力の確保が大変な現在では、簡単でない部分もあります。

 

 

④環境面から

 天日乾燥は、太陽と風が昆布を乾かしてくれます。

完全な自然エネルギーですね。

それに対して、機械乾燥は燃料を燃やして乾燥室の温度を上げますから、環境面から考えると天日乾燥が推進されるべきだと思います。

ただ、生産現場の諸々の事情によって、それがすぐに可能でない場合もあり、なかなか難しいところです。

 

実は、機械乾燥と天日乾燥のハイブリッドのような方法もあります。

実際に多くの漁師さんが取り入れていますが、「水切り」の工程を入れることです。

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この写真のように昆布を吊り下げて、漁獲直後の水分を切り、いくらか乾燥させます。

その後に乾燥室に入れて完全に乾燥させる流れです。

この方法では、品質面でも天日乾燥に近くなりますし、何より燃料の節約にもなります。

ただ、昆布をたくさん吊るした竿は非常に重く、効率よく乾燥室に入れるためにはちょっとした設備やスペースも必要ですから、なかなか対応が難しい漁家もあるようです。

完全に天日乾燥で仕上げるのは難しいにしても、この「水切り」のような方法で、可能な範囲で積極的に自然エネルギーによる乾燥に取り組むべきだと思います。

 

 

 まとめますと、天日乾燥は、乾燥の部分だけで言えば、非常に良い品質のものができ、環境面で最も良い方法だとは思います。

ただ同時に解決すべき課題もあり、機械乾燥はそれを補うもので、様々なメリットもありますので一概に否定はできません。

ただ、「天日で問題ないのなら天日乾燥を積極的に選択する」ということができれば良いとは思います。

 

今後の日本の労働環境を考えれば、できるだけ作業効率の良い方法が求められますし、同時に品質を良い状態で保つこと、環境負荷を少しでも減らすこと、様々な問題を同時に解決する手段が求められます。

当然、それは簡単では無いのですが、目指すべき方向性だけは決まっていますので、その実現に向けて、大阪からも昆布産地に引き続き働きかけたいと考えています。

故・吉村捨良氏の功績に学ぶ

 

以前から度々投稿しております、天然真昆布大不漁の問題。

私たちは、何とかしてそれを解決していかなければいけない訳です。

簡単に結果が出ない難問に、根気強く挑んでいく必要があります。

その最前線に立つのは、やはり昆布漁師さん達でしょう。

本日の投稿は、より良い昆布漁業のために尽力し、素晴らしい功績を挙げた先人のお話です。

 

 

私は、平成16年から毎年、最高級の真昆布産地である北海道の旧南茅部町「川汲浜」を訪れ、漁師さんのお手伝いなどをしてきました。

その最初の年、右も左も分からない私を受け入れてくれたのが、タイトルの「吉村さん」宅です。

 

 

タイトルに書きました吉村捨良(故人)さんは、当時既に80歳の高齢でしたから、お仕事はご子息の良一さんが中心となっておられました。

平成15年に「南かやべ漁協」として周辺浜と合併されるまでは、「川汲漁協」として独立した組織が存在し、良一さんは川汲漁協の最後の組合長を務めた方です。

三代目の時代からのご縁もあって、「浜の仕事を手伝ってみたい」との申し出を、吉村良一さんが快く受け入れてくれた次第です。

 

 

川汲での天然真昆布漁は、通常三人態勢で舟に乗り込みます。

昆布を採る漁師さんと、助手二名です。

助手の内訳は、海流や風で動きがちな舟を漁師さんが仕事しやすい位置に保つ「トメシ」という役割と、採取された昆布を船上の定位置に揃えて積み上げる「中乗り」という役割です。

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良一さんは、奥様とお嬢さんとの三人態勢で漁をしておられましたから、私はお父様の捨良さんの舟で「中乗り」としてお手伝いさせていただくことになりました。

 

 

下の写真は、平成16年当時の吉村捨良さんです。80歳のご高齢でも、とても力強い仕事ぶりでした。

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実は、この吉村捨良さん、ただの漁師ではないのです。

昆布漁業の「伝説的人物」として扱われるべき人だと思います。

最も革命的な功績は、日本で初めて昆布養殖を実用化させたことです。

 

 

まず、天然真昆布漁は夏場の限られた時期しかありません。

水揚げ後すぐ乾燥させ、その後の時期は、製品として流通させるための陸上での仕事が続きます。

そんなお仕事が一段落した頃、昭和40年代に昆布養殖が実用化されるまでは、多くの漁師さんは出稼ぎに出るのが普通であったのです。

そもそも昔から天然真昆布の漁獲量は年による変動が大きく、それだけでは漁家の生計が成り立たなかったのです。

出稼ぎ期間中、ご家族と離れて遠方で暮らすことは、決して好ましいことではないでしょう。

実際に吉村さん宅でも、良一さん曰く「おやじは漁期と正月以外、家にいなかった」とのことです。

そんな昆布漁家の暮らしを、出稼ぎから解放したのが「昆布養殖の実用化」であったわけです。

実は吉村さんの成功以前にも、数限りない人達が昆布養殖に挑んでいます。しかし、長く実現しない困難な事業でありました。

 

 

 

そんな難しい問題に挑み、日本で初めて突破口を開いた吉村さん。

  私が初めて昆布産地を訪問し、同じ舟に乗って共に仕事をさせていただいたのが、こんな方であったのは望外の幸運であったと、今になって改めて思います。

実は、私が初めて浜へ出向いた平成16年、滞在は一週間ほどでしたが、その期間中ずっと吉村さん宅に泊めていただいていたのです。

食事も全てご用意していただき、ご家族の皆さんと一緒に頂いています。

もうホームステイのような状態でしょうか。

そんな日々ですので、一日の仕事が終わって夕食も済めば、捨良さんから色々なお話を伺うことができました。

 

 

捨良さんは、昆布漁師というより、エンジニアのような方でした。

昆布養殖施設の設計以外にも、天日乾燥に代わる良い機械乾燥についての持論をたくさん伺いました。

ただ昆布が乾けば良いというものでなく、捨良さんの目は良い品質の昆布に仕上げることに常に向いていたのが印象的です。

そのあたりのことは、南茅部町史にも記されていますので、下記リンクからご一読ください。

南茅部町史・第六編『漁業』

現在でも使われている、養殖昆布の水揚げ後に使う昆布洗浄機も、原型は捨良さんが考案されたものです。

 

下に、北海道新聞が捨良さんを取材した記事を載せておきます。

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この新聞記事にも書かれていますが、昆布養殖の実用化へ吉村さんとタッグを組んだ、水産庁北海道区水産研究所の所長を務められた長谷川由雄氏。

私は長谷川さんにお会いしたことはありませんが、こちらも負けず劣らず立派な方です。

 

2002年の北海道新聞の取材に対しては「養殖技術で打ち出の小槌のようにコンブが収穫できるように思えるが、天然物が生育できない環境では養殖も難しい」とコメントしておられます(本投稿末尾の新聞記事をご参照下さい)。

 

現在の状況を見透かして警告したような、なんとも感服の先見の明。

この言葉が、養殖昆布の産みの親から出たものであることも特筆すべきところでしょう。

過去には、昆布の浜に見事な成果を残す偉大な方が居たんですね。

 

 

時代時代で私たちが直面する問題は変わります。

それでも、各世代でそれぞれに解決すべき課題が存在し、それに立ち向かって突破口を開いた先人がいたわけです。

吉村さんの功績に学び、現在の危機的状況に立ち向かい、明日の昆布漁業をつくる若い意欲のある漁師さんがきっと出てくることでしょう。

 

こんぶ土居では、微力ながら次世代の漁業者の育成にも関わってきました。

そんなお話はまた改めて書かせていただければと思います。

(了)f:id:konbudoi4th:20210724145947j:plain

 

「養殖昆布は採れている」では、だめな理由

 

前回の投稿で、私共でずっと使用してきた川汲浜の天然真昆布が、不作によって2021年の漁が無いことを書きました。


昆布屋としての営業に、大きな影を落とす出来事です。

誤解があってはいけませんので改めて書いておきますと、北海道の他の地域では、天然昆布が引き続き採れている場所もあります。

また、前述の川汲でも養殖真昆布の生産は比較的安定しています。

この構図をどう見るかがとても大事なポイントになるかと思いますので、今日の投稿は、それについてのお話です。

 

 

お人によっては、「天然真昆布にこだわらなくても、養殖の真昆布でもいいじゃないか」とお考えになるかも知れません。

狭い見方をすればその通りですが、もう少し深い理解がされることを期待します。

 

 

品質面で申し上げれば、天然真昆布と養殖真昆布の味が違うのは言うまでもありません。

しかし、むしろ本当に大切なことは、そんな話ではないのです。

環境が大きく変わり、北海道だけでなく全国的に、更には世界的に、海藻の状態がおかしくなっていることこそ、注目すべきポイントでしょう。

海藻が死滅して岩盤が露出し、そこにウニばかりが目立つ事例は海外でも非常に多くなっています。

 

 

本来の日本の豊かな沿岸環境は、海藻が生えているものです。

北海道の昆布産地でも、海中に昆布ばかりが生えているわけでは当然ありませんで、多種多様の海藻が生息しています。

これらの多様な海藻の群落は「海中林」と呼ばれることもあり、陸上に多種多様の植物が生息しているのと同じ形です。

つまり、海藻が消滅していくということは、陸上の森の木がどんどん枯れていくのと同じようなことだと言えるかと思います。

 

 

想像してみて下さい。

原因が分からないまま、日本の山林からどんどん木々が枯れて消滅することを。

誰もがそれを、とても恐ろしいことだと感じるはずですが、同じようなことが実際に海中で起きているのです。

 

山の木々が人間の住む環境に大きな役割を果たしているのと、海中林が果たしている役割は同じでしょう。

例えば、陸上の植物が光合成によって炭素を固定し、同時に酸素を吐き出していることは、誰もが知るところです。

海藻も光合成をしていますから、海水の組成やPHにも大きな影響を及ぼしています。

それが消滅していくことが沿岸環境にどれほど大きなダメージをもたらすか、想像に難くないでしょう。

 

 

養殖昆布は、言わずもがな人間が栽培したものです。

しかも、岩盤に根を下ろす天然昆布と違い、沖合に設置したロープに着生する形で生育するので、植物としては同じであっても生え方が違うのです。

他の海藻が生えず岩盤が丸裸になって、養殖昆布栽培ばかりが盛んな海は、山で言えば、人間が植林した針葉樹ばかりが生えて他の樹木が消滅しているようなものです。

そうなれば大変なことですし、その先には、針葉樹までもがだめになる図が想像できませんでしょうか。

 

 

私共は昆布屋ですから、当初は原料調達の問題として天然真昆布の不作を捉えていました。

又は、過去から受け継がれてきた伝統ある昆布文化の危機として見てきたところがあります。

しかしこの問題は、もはやそんなレベルを超えているのではないかと考えています。

 

 

天然真昆布の大凶作は、「警鐘」だと捉えるべきでしょう。

おいしい昆布がどうとか、食文化がどうとか、それはもちろん大切なのですが、背後には、もっともっと重大な危機が潜んでいるように思えてなりません。

しかし、前述のように養殖昆布の生産は安定していることもあって、天然真昆布の危機的状況の報道を、ほとんど見かけません。

それ故に、多くの方がこの問題をご存知ないままに見過ごされ、更に悪化していくことを危惧しています。

 

 

常態化した天然真昆布の不作に見舞われ、私はそれを復活させたいと考えて微力ながら活動してきましたが、もう自分の中でのテーマは変わっています。

すべきことは「藻場の再生」です。

その結果としての「天然真昆布の復活」だとの認識になっています。

 

 

今日も、スーパー等の食料品店に行けば、昆布全体としては品不足になっているわけでもありません。

それを見ると、大きな問題ないように感じてしまいがちですが、「養殖昆布があるんだから、それでいいじゃないか」との認識に潜む問題が、ご理解いただけましたでしょうか。

 

 

繰り返しになりますが、天然真昆布の連年の大不作を、更に大きな問題の『警鐘』だと認識して下さる方が一人でも多くなることを願っています。

 

実は日本でも、過去に藻場の再生の成功事例があります。

宜しければ、下記の過去投稿もご参照下さい。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

ついに来た、生産量ゼロの年

鰻を食べる風習のある「丑の日」で知られる夏の土用。

ちょうど今の時期7月20日頃のことですが、道南の天然真昆布漁が始まるのは昔からこの時期でした。

昆布漁の最盛期には浜が活気づき、特別な空気に包まれます。

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私も平成16年から毎年、使用する最高級真昆布の産地である川汲浜を訪れ、漁師さんのお手伝いをしたりしてきました。

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今年は、あいにくコロナウイルス感染症もあって出張するわけにもいかず、大阪で普段通り過ごしています。

 

 

そして今年、史上初の事態が起きてしまいました。

川汲浜では、今年の天然真昆布漁はありません。

昆布がほとんど生えていないのです。

このブログでも幾度となく書いてきましたが、平成26年を最後の豊作年として、それ以後、道南の天然真昆布は不作が続いています。

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その復活のために活動してきましたが、短い期間で成果が出るような生易しい事でないのを、やればやるほど感じて、歯がゆいものです。

 

こんな現状であっても、こんぶ土居では天然真昆布を引き続き販売しています。

熟成による品質の向上と不作への対応として、十分な備蓄をしてきたからこそですが、それも長くは続かないと思います。

私共が主たる原料としてきた昆布が一切手に入らず、販売を終了する。

そんな未来が見えてきてしまいました。

 

取るに足らない品質のものが無くなるのならまだしも、大昔から最高級品に指定され、「献上昆布」の別名もある昆布です。

日本独自の伝統食文化の大切な要素が無くなりつつある現状を、非常に残念に思います。

なんとか未来に良い結果を出すために、復活への取り組みは続けたいと思います。

 

 

初めて浜を訪れた平成16年当時のことを今でも鮮明に思い出しますが、「良い時代だったんだなぁ」などと思ってしまいます。

昆布屋をやり始めてまだ数年であった当時に書いた、感想文のようなものを末尾に載せておきます。

天然真昆布がなくなるなど、思いもしなかった在りし日の思い出です。

 

次回の投稿は『「養殖昆布は採れている」では、だめな理由』と題し、天然昆布の不作が真に意味するものについてのお話です(下記リンク)。

もう、食品としての美味しさとか、そんなことを超えた重大な要素を含んでいますから、是非ご一読いただきたいと思います。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

 

drive.google.com

 

 

食育について

 

 

「食育」という言葉が広く知られるようになりました。
昔であれば、食の基本的な素養は、家庭での食習慣で自然と身につくものだったでしょう。

しかし、それが難しくなった現代ですから、教育の一環として重要視されてきているのだと思います。


食育活動自体は、もちろん良いことだと思うのですが、その一方で「食育」の名を借りた企業の営業活動のようなものも見受けられますから注意が必要です。


例えば、インスタントラーメンを作っているメーカーが、自社製品のアレンジレシピを考えるイベントを、「食育」の名のもとに開催したり。

日本の「だし」の話と結びつけて「うまみ」を説明し、終わり際に子供たちに自社のうまみ調味料を記念品に渡していったり。


こんなのは、食育でも何でもなく、ただの自社製品の刷り込みでしょう。

こういった事例が学校教育にまで入り込んでいますから、困ったものです。

 


また、一流の料理人さんが学校などに出向いて、外国の特殊な料理を披露したりする事もあるようです。
これは特に悪いというわけではありませんが、言ってみれば趣味的な内容であって、優先順位としては基本的なことを押さえた後であるべきでしょう。

 


やはり子供に向けた食育としては、「一汁一菜」と呼ばれるような、伝統的な食の基本から教えるのが良いように思います。


具体的には、お米を炊けるようになることは、最初の一歩でしょう。

それも、炊飯器でなく鍋で炊くことを教えられればと思います。

次には、おいしい味噌汁が作れることでしょうか。

 

 

冒頭には、問題のある食育の例を書きましたが、継続して素晴らしい取り組みをしている企業もあります。
大阪ガスさんの食育は、その代表例でしょう。

www.osakagas.co.jp


オール電化のご家庭を除き、調理には普通ガスを使いますから、食育にも力を入れておられるのだと思います。
大阪ガスさんで2017年から継続しておられる「和食だし体験講座」は、私共としても非常に参考になります。
過去に、こんぶ土居が少しだけお手伝いさせていただいた経緯もあり、定期的に活動の様子などをお知らせ下さっています。

 

こうした活動は、社会からも高く評価され、多くの表彰も受けておられます。

このご時世、こういった取り組みへの予算もつきづらいようですが、なんとか良い形で継続していっていただきたいものです。 

 継続してこられたからこその調査レポートも非常に興味深いです。

https://www.osakagas.co.jp/shokuiku/pdf/2021/wadashi_report2107.pdf

 

 

 こんぶ土居での取り組みの事例をご紹介しますと、北海道の昆布産地の小学生へ向けたものでしょうか。

三代目の時代から、20年来続けてきました。

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毎年5年生を対象に開催してきましたが、大きくなった彼らと再会する機会も結構あるのですが、意外なほどに当時のことをよく覚えていてくれているのが非常に嬉しいです。

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なんでもそうですが、やはり「続ける」ことは大切ですね。

 

 食育については、平成19年に、当時不定期で発行していた「こんぶ土居通信」で三代目が考え方について書いています。宜しければ、そちらもご覧ください。

 

drive.google.com

 

 

本ブログ内にも、前述の磨光小学校で続けてきた1日授業について書いた過去投稿がありますので、下にリンクを貼っておきます。

 

konbudoi4th.hatenablog.com

 

 

『表示』、品質を見分ける指標

 

  例えば加工食品のパッケージに、

『こだわりの厳選素材を使って』とか、

丁寧に心を込めて作っていますとか、

先祖伝来の秘伝の製法でとか、

 

こんな表現を目にしたとすれば、多くの方はどのようにお感じになるのでしょうか。

 

 

加工食品を製造するメーカーはどこの会社でも、自社製品を良く見せたいものです。

そのため、前述のような美辞麗句を並べたてがちです。

しかし多くの場合、その表現が具体的に何を意味したものなのか曖昧です。

 

例えば、「こだわり」「丁寧に心を込めて」「秘伝の製法」といった言葉なら、たいていの製品に関してこじつけて言ってしまえるはずです。

こんな表現は、言わば「書き放題」です(一部、表現方法の規制は存在しますが、抜け道はいくらでもあるものです)

 

 

私個人的には、そんな表現を見れば「やれやれ」と思ってしまうのですが、多くのメーカーがそんなアピールを続けるところを見ると、効果があるということでしょうか。

こんぶ土居の製品には、そんな意義に乏しい表現は使いたくありません。

もう少し、実のある情報提供をしたいと考えています。

 

 

「好きなように書き放題」、でない要素としては、行政によって加工食品に表示することが義務付けられている情報があります。

それは「一括表示」と呼ばれるものです。

パッケージの裏面にまとめて書かれている表示のことですね。

「一括表示」の、最も基本となる情報は下記の6つです。

 

●名称
●原材料名
●内容量
●消費期限または賞味期限
●保存方法
●製造者等の名称及び住所

(これ以外にも、栄養成分表示や主要原料の原産地表示なども、昨年猶予期間が過ぎて現在では表示が義務付けられています。)

 

この中で、製品の良し悪しを見分けるために最も注目すべき要素は「原材料名」だと思います。

 

メーカーが加工食品を作る際、その製品が本当に良い素材でつくられているのなら、それは「多くの消費者に伝えたい情報」でしょう。

逆に、ある製品が粗悪な原材料でつくられているとすれば、それはメーカーにとって「知られたくない情報」でしょう。

これは、非常に大きな違いです。

 

つまり、本当に厳選した素材で製品を作っているのであれば、それは進んで開示したくなるはずなのです。

ですので、ずっと昔からこんぶ土居では、表示義務のありなしに関わらず可能な限り詳細な原材料表示を書くようにしてきました。

 

しかし製品の表示は、例外的な場合を除き8ポイント以上のフォントサイズで書くことが決められていますから、載せられる情報量はラベルの面積的な理由によって制約があります。

しかし、オンラインストアであれば、文字数の制約はありません。

そのため、基本的に全ての原材料について産地(原産地または加工地)を表示し、複合原材料については、それが何で構成されているのかを書いています。

 

例えば、よくあるタイプの塩ふき昆布である「細切しおふき」を例に取ると、製品に貼り付けているラベルはこんな表記になっています。

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オンラインストアでは、更に詳細に下記の通りに記載しています。

【原材料の詳細】
真昆布(北海道函館市産)
丸大豆醤油(和歌山県東牟婁郡製造)(原材料:丸大豆、小麦、塩)
濃縮だし(大阪府製造)(原材料:真昆布、鰹節、鰯煮干し)
たまり醤油(三重県鈴鹿市製造)(原材料:丸大豆、塩)
伝統味醂岐阜県加茂郡製造)(原材料:もち米、米麹、米焼酎(乙類))
純米酒(長野県佐久市製造)(原材料:米、米麹)
和三盆糖徳島県製造)(原材料:さとうきび、砂糖)

 

 

自画自賛になりますが、こんな詳細な原材料表示は、他社に例を見ません。

前述の通り、こんぶ土居が詳細な表示をするのは、それが「知っていただきたい情報」であるからです。

仮に粗悪な原料で製品づくりをしているのであれば、そんな「知られたくない情報」を進んで書きはしないでしょう。

この事に、是非ご注目いただけるなら、製品づくりをしている者としては非常に嬉しく思います。

 

一括表示欄に義務付けられている要素だけでは、消費者に十分な情報が伝わらないものです。

本ブログの過去投稿では、表示を免除されるものについて詳細に書いています。

是非ご一読下さい。

表示を免除されるもの① 原材料の原材料 - こんぶ土居店主のブログ

表示を免除されるもの②キャリーオーバー - こんぶ土居店主のブログ

表示を免除されるもの③加工助剤 - こんぶ土居店主のブログ

表示を免除されるもの④栄養強化目的 - こんぶ土居店主のブログ

 

 

原材料表示への「姿勢」の違いから、こんぶ土居製品と一般的な製品との違いを推し量っていただけるなら、非常に嬉しく思います。

 

 

ラッコと昆布に夢想

 

先日、海外のネット記事に面白いものを見つけました。

カリフォルニアでの、ラッコと海藻の関わりについての記事です。

mobile.reuters.com

 

内容の趣旨は、カリフォルニアで海藻が減少する問題に、ラッコが役に立つかも知れない、といったものです。

海藻が減少して磯焼け状態になることは、世界的に問題視されていますが、磯焼けの海では岩盤が露出し、そこにウニばかりが目立つものです。

ウニは海藻を食べますから、その個体数が増えすぎることは、海藻にダメージを与えるわけです。

しかし、もしその海域にラッコがたくさんいれば、ウニを食べてくれますので個体数が調整されることになります。

 

 

 

とても面白い内容の記事でしたので、改めて少し調べてみると、なんと過去には北海道にもたくさんラッコがいたようです。

そもそも「ラッコ」という言葉は、アイヌ語に由来するということですから驚きです。

しかし、現在は日本に野生のラッコはほとんどいません。

理由は単純で、過去に乱獲されているのです。

 

18世紀から毛皮目的で乱獲され、20世紀の初頭には、絶滅の危機に瀕しています。

つまり、100年ほど前には、既に日本からラッコはほぼ姿を消しているのです。

私たちがラッコと北海道を結び付けるイメージを持てなくても無理はありません。

 

 

以前から、天然昆布の資源枯渇に関して何度も投稿していますが、やはり過去から少しずつ生態系のバランスを崩してきているのがよくわかる事例です。

ラッコが昆布不作の直接的な原因だと言うつもりはありませんが、とにかく人間が無茶なことをした過去のツケがまわってきているということは、間違いないように思います。

非常に根深い原因が、本当にたくさんありますから、私がずっと取り組んでいる天然真昆布の再生も、簡単に結果が出るようなことではないようです。

 

 

水族館の人気者のラッコ。

昔は北海道でも昆布に戯れるかわいらしい姿をたくさん見れたんだなぁ、と思うと、そんな光景が戻ってくることを期待し、夢に描いてしまいます。

 

天然真昆布の資源枯渇は乱獲によって起きている訳ではありませんので、ラッコと同列に語ることはできませんが、長い間自然にダメージを与えて続けてきた人間の営みを反省し、改善する必要性を改めて感じます。